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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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オーブン



どこもかしこもビッシリと霜に覆われ氷柱(つらら)さえ伸びてきている今の〈ヤマト〉艦内で、医務室の他にもうひとつ、寒さなどまるで感じぬ場所がある。メインとサブのエンジン区画だ。暖房など入ってないのにむしろ暑いくらいだった。当然のようではあるが当然ではない。

藪は、グッタリとなっている先輩機関員を肩に担いでエンジン区画を出た。機関室の中は今、途轍もない暑さ――いや、〈熱さ〉になってしまっている。消防服の温度計に眼をやれば、その目盛りは摂氏180度を示していた。

これは、エンジン区画内が、ひとつの巨大なパン焼き窯になってしまっている状態だ。今、パン種をこねて丸めて鉄板に並べ、機関室の床に置いてやったなら、十五分後にロールパンでもメロンパンでもこんがりふっくら焼けて出来上がることだろう。

エンジンの内部が熱いのは当然として、その周りで機関科員が働く区画は冷房されていなければならない。だがその装置がいま正常な機能を失っているのだった。結果として今の機関区はパン焼きオーブン。

ところが、しかしそのエンジン区画を一歩出たなら船の中は霜で真っ白。藪は救け出してきた先輩を床に寝かせた。フライパンに肉でも置いてやったようなジューッという音がして、白い湯気が立ち上る。

先輩は言った。「すまん」

「いいえ」

と応える。宇宙軍艦の戦闘服はかなりの高温に晒されても着る者を護るように造られている――実際、摂氏二百度程度の熱に耐えられぬようならば宇宙服として役に立たない――とは言え、〈命を護る〉と言うのと、〈働けられるようにする〉と言うのは話がまったく別だ。

けれど藪が着ているのは、八百度の熱にも耐える特製の消防服だった。オーブンと化した今の機関室内を歩いてまったくなんともない。

全身銀ピカで顔の前のバイザーまでミラーコートされている。こちらから相手の顔は見えるけれど、相手の眼に映るのは丸く歪んだ己の顔だ。

通路には、その先輩と同じように動けなくなってしまった機関科員が何人も。黄色や緑のコードを着けた船外服の者達が彼らを担架に載せて医務室へと運んで行く。

それを見送り、なんてことだと藪は思った。冷凍庫と化した今の〈ヤマト〉艦内では誰もが宇宙船外服で寒さから身を守っている。ところが、機関区ではそんなものは不要と考え、誰も着替えてはいなかったのだ。それで寒さにはやられなかったが、しかし温度が急上昇してみんな暑さにやられてしまった――。

〈ヤマト計画〉に前から関わり、訓練を重ねてこの機関区に精通した者達が、みんな倒れてしまったのだ。この区画でいま動ける人間は――。

おれだけ? そんな。しかし他に誰もいない。唸りを上げる巨大な波動エンジンを藪は途方に暮れる思いで見上げた。温度計の針はジワジワと目盛りを上げて摂氏190度に届こうとしている。