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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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波動エンジン炉



そこは無数のレバーやダイヤル、メーターが並ぶトンネル状の空間だった。奥に銀行強盗の映画でよく見るような丸く分厚い金属製の扉がある。

〈ヤマト〉機関室。波動エンジンの〈コア〉を納めた炉の制御室だ。藪は徳川に命じられるまま、初めて入ったその円筒の中にいた。

銀ピカの消防服を着たままだ。右も左も機器に埋め尽くされていて、何が何やら見当もつかない。

『大丈夫か』

と、通信機で徳川の声が耳に入ってきた。

「ええ、でも……」

『心配するな。迂闊にいじっちゃいけないようなレバーやボタンには、全部ロックやカバーがしてある。不用意に触ったところで問題はない』

「はい」

と言った。なるほど一見するところ確かにそのようでもあるが、だからと言って触ってみたいと言う気もしない。

『いいか藪。その部屋の奥にあるのがエンジンの炉だ』

と徳川の声。藪は「はい」と返事した。

『そいつの〈火〉はいま消えかけてしまっておる。〈ヤマト〉はすべてがその〈火〉の力で動いとるので、消えてしまったらおしまいなんだ。一度消えたら二度と〈火〉は点けられず、わしらはみんな永遠にここで氷漬けとなるのだ』

「それはわかりますが」

『うむ。今それを防げるのはお前しかいない。藪、お前がカルトッフェルザラートをアプフェルシュトゥールーデルにして、ゲロイフェルター・ラックスをヘーフェバイスビアのレバークヌーデルズッペにするんだ』

「は?」と言った。「ええと……」

『ゲロイフェルター・ラックスをヘーフェバイスビアのレバークヌーデルズッペにするんだ』

「あの……もう一度言ってください」

『何、難しく考えんでいい。いちばん奥に丸い扉があるだろう。真ん中にハンドルが付いとるな』

「はい」

と言った。確かに船の舵輪のような大きな丸いハンドルがあるのがわかる。

『そいつの上にランプが付いとる。今は赤く光っているな。その光が緑になるまでハンドルを時計回りに回せばいいんだ』

「ええと……」と言った。「あの、それだけですか」

『そうだよ』

「ただそれだけ?」

『そうだ』と言った。『いいか藪。今すべてがお前の力にかかっていると言ってもいいんだ』

「はあ」

と言った。そりゃそうかもしんないけど、なんかおれの仕事ってこんなんばっかりじゃあねえか? そんなふうに思いながら扉に近づきハンドルに手をかける。

「時計回りですね」

言って腕に力を込める。しかし固くてまったくウンともスンともしない。

「これ、回りませんけれど」

『ロックを外しとらんのじゃないか? ハンドルの根元んところをよく見てみろ』

「は?」

と言った。なるほど基部にロックレバーらしきものがある。『先に言え』と思いながら解除した。

あらためてハンドルを回そうとする。が、しかし、

「やっぱり回りません」

『そんなはずはない。力を込めてやってみろ』

「そう言われても……」

グイと力を込めてみる。ようやく少しだけ回った。回りはするが、

「これ、すごく重いんですけど」

『そうだろう。そのハンドル、すごく重いんだ』

「先に言ってくださいよお!」

フウフウ言いつつ一回転ほどさせてみた。けれどもランプは赤のままだ。

「これ、どのくらい回すんですか」

『わからん。緑になるまでだ』

「ううう」

『頑張れ藪。若いもんが泣きごと言うな。今はすべてがお前ひとりにかかっているんだからな』

「はあ」

と言った。嘘だ、そんなことあるもんか、と思いながら。