敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
二機目
『あいつらは群れで襲ってきたんです! 何十機がひとつの大きな塊になって、上から――!』
インディア編隊の隊長機の叫びが通信で聞こえてくる。その内容に古代は慄然とした。
「つまり」と言う。「そうして一機に狙いをつけて、集中的に……」
『そうです!』
『いかん!』と加藤の声がした。『そんなの、躱しようがないぞ!』
そうだ、と思う。他の者らも、
『そうだ、狙われたらおしまいだぞ!』『どうする?』
と通信で呼び合っている。レーダーには上昇していく敵の編隊。バラバラに映っていたものがやがてひとつにまとまって、ステルスの蓑(みの)を被って〈見えなく〉なる。
『来るぞ!』
数人が口々に言った。そうだ、レーダーから消えたのは、敵がまたこちらの一機に狙いを付けて一斉に急降下を始めたと言うこと――次の標的は誰なんだ、おれか?と古代は思った。隊長機がこの〈ゼロ〉だと思えば当然やつら――。
おれを狙うに決まっている! そう思った。だが違った。『ぎゃああっ!』と言う悲鳴が通信で聞こえてくる。
レーダーを見る。《D2》――デルタ隊の二番機が敵にロック・オンされたのを報せるマークが示されていた。
『おれか! 救けてくれ!』
と〈デルタ・ツー〉。彼の〈タイガー〉が宙を転がるようになって逃げ惑う――と、その機に向かって敵が、一斉にミサイルを発射したのが画面に映し出された。
『うわあっ!』と〈デルタ・ツー〉。『やられた! ちくちょう、翼がもう――』
『イシダ!』と〈デルタ・ワン〉の声がする。それがパイロットの名なのだろう。『生きてるのか! 脱出しろ!』
だが、次の瞬間に、また何十と言うミサイルが〈デルタ・ツー〉めがけて射たれたのがわかった。空の彼方で爆発する光が見える。
《D2》はレーダーから消えた。
敵の戦闘機隊は散開。ステルスの蓑が剥がれてレーダーに映り、すぐまた上に昇っていくのが見て取れるようになる。
『地球の機と一対一や三対一で不利な戦いをする気などない。百対一で一機一機と潰していくのみだ』と決め込んでいるのがはっきりと知れる動きだった。
「そんな……」
古代はつぶやいた。これをどう防ぐ。いや、防ぐ方法なんてあるのか……。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之