敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
算出
「よし!」
と〈ヤマト〉第一艦橋で、波動エンジンの炉の状態をモニターしていた徳川が言った。
「ゲロイフェルター・ラックスがレバークヌーデルズッペになった。炉はもう危険な状態を脱したぞ。藪、よくやった!」
『ふわあ』
と、もうヘトヘトな返事がくる。艦橋クルーの南部を除く全員が徳川を向いて、『実際のところエンジンはどんな危険な状態にあって、どう危機を脱したのだろう』という顔をしたが、しかしあえて聞きただそうとする者はなかった。ゲロイなんとかがどんなものか知ってどうする、ともいった表情だ。
ともかく、エンジンが危機を抜けたと言うのなら、それはすなわち〈ヤマト〉が戦闘能力を取り戻したと言うことだ。医務室前にケガ人はもう転がっておらず、動ける者は包帯巻いて持ち場に戻り、重傷者のみベッドにくくりつける作業が主になっている。
機関科員も例外ではない。回復した者から順に元の配置に取り付いていく。カメラが撮ったそのようすがマルチスクリーンに映っていた。
ならば、当面の問題は、古代と航空隊員達が、〈魔女〉を討ち取れるかだ。相原が空の戦いに〈耳〉を澄ませているが、
「とてもビーム砲台を探すどころではないようです。もう限界ではないかと……」
「わかってる」
と真田が言った。眼は南部が取り組んでいる計算に向けたままだ。
島や太田がそのようすを訝(いぶか)しげに見遣っていた。その計算で〈魔女〉の位置は〈点〉ではわからぬと言うではないか。ならばその計算になんの意味があると言うのか――聞いてもわかっているらしい真田と新見が答えないのでそのままと言う状態だ。とにかく南部の計算が済めば、すべてハッキリするらしいのだが、
「出来ました!」
南部が叫んだ。キーボードをカチャカチャと叩いて何やら入力し、〈実行〉キーを押して言う。
「この線上のどこかです!」
メインスクリーンの画像が変わった。冥王星の地図が映る。そこに緩い弧を描く長い一本の線が描かれていた。
クルー達が皆それを見る。島が言った。「線?」
「そう」
と真田が言った。彼にはわかっていたらしかった。計算で〈魔女〉の居場所は〈点〉では特定できない。だが、〈線〉でならわかるだろう、と。
事はどうやら彼の読み通りであったらしかった。スクリーンの画(え)を見上げ、真田はニヤリと笑って言った。
「ここまでわかれば上出来だ」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之