敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
確信
「ソナー及び水中レーダーに巨大物体の反応有り! 急速に浮上しています!」
ガミラス基地司令室でオペレーターが叫んだ。
「〈ヤマト〉です! 間違いありません!」
「来たか!」
とシュルツは言った。身を乗り出してスクリーンを見る。だが、
「どうなのだ。上に出てくる気なのか?」
「この勢いならばそうです。とても止められませんから……」
とオペレーター。つまり、〈ヤマト〉がゆっくりと海底から上がってくるなら厚い氷の下で止まって、戦闘機隊がビーム砲台を潰すのを待つ気なのだと言うことになる。けれどもグングン上がってくるなら、その勢いで氷をブチ割り飛び出してくる気なのだとわかるわけだ。
そして、これは後者だった。〈ヤマト〉が浮上してくる速度は、とてもいったん氷の下で止まれるようなものではない。
「よし、いいぞ!」シュルツは言った。「〈反射衛星砲〉、発射用意だ! 出てきたところを最大出力でブチかませ!」
「はい!」
と砲のオペレーター。発射準備は完了しており、後は狙いの微調整だけだ。
使う〈カガミ〉はふたつだけ。重力均衡点にある〈要(かなめ)〉の衛星と、〈ヤマト〉の直上に配置した衛星、それだけだ。そのふたつにだけ反射させて〈ヤマト〉を撃つ。もう何度もカクカクと反射させることはしない。敵はこちらの手の内をすべて知ったに違いないのに、砲台の位置を隠す必要がどこにあるのか。
だから衛星は二基だけだ。それで〈ヤマト〉を真上からズドンとブチ抜いてやる。手加減無しの最大出力ならばそうとも間違いなくあのデカブツもおしまいだ!
やったぞ、とシュルツは思った。わたしの読みが当たったのだ。〈ヤマト〉は必ず、ビーム砲台が生きてるうちに氷を割って出てくるだろう。そのときこそが上で待つ戦艦隊と戦うチャンスと考えて――。
そうだ。もちろんその通りだとシュルツは思った。〈ヤマト〉を指揮している者よ。わたしがお前であるならば、やはり同じに考えてここで氷を割ることだろう。不運だったな。すまんが、命を頂戴することにしよう。
残念だが、もうこれ以上お前と遊んでいられんのだとシュルツは思った。もうひとつのスクリーンに映るビーム砲台の状況に眼をやる。敵の戦闘機編隊はまっすぐ砲台を目指しているが、〈ヤマト〉を撃つのを止めるには到底間に合わないだろう。
勝ったな、とシュルツは思った。〈冥王星〉――やつらがそう呼ぶこの冷ややかな氷の星はこのわたしに味方した。あと五十年続く白夜の圏にある〈ハートマーク〉に冷たい笑みを浮かばせ、地球人類の終焉(しゅうえん)を眺めて過ごすことだろう、と。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之