敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
スノードーム
「命中! 直撃です!」
ガミラス基地司令室でレーダーのオペレーターが叫ぶ。画面に映る映像は、真っ白な水煙にすべてが覆われてしまっていてシュルツにはよく見えなかった。それでも水柱の中に、銛で突かれた魚がバタバタと暴れているかのような黒い影を見ることができる。
砲台から撃ち出された対艦ビームは、一瞬にして重力均衡点に浮かぶ反射衛星に当たって光線を跳ね返させた。それは〈ヤマト〉の直上に置いた衛星でまた反射され、狙い澄ました目標へと突き進む。ふたつの衛星に四枚ずつ、合計八枚のビーム反射板は最大出力の光線に耐えられずに溶けてひしゃげ、枯れた花のようになってちぎれた。けれども船を一撃に仕留めるのに充分な量の光は確実に〈ヤマト〉めがけて送っていた。
亜光速のビームが〈ヤマト〉に届くまでに数分の一秒。何をどうしようとも躱すことのできない時間だ。
そして、見事に命中した。直撃だ。やったのだ。噴き上がる水の中で〈く〉の字に曲がってしまった船が、火を吹き遂にヘシ折れたのが見て取れた。果たしてあれで〈波動砲〉の秘密を調べられるのか……ちょっとやり過ぎたかもしれない。完全に壊れてしまったのでなければよいが……そうも思わずいられぬが、考えても始まるまい。
きわどいところだったのだ。もう少しでビーム砲台は失われ、我が三隻の戦艦は良くて〈ヤマト〉と相討ちか、ヘタをすればすべて殺られて外宇宙にやつらを出すところだった。たとえ勝ってもやはり〈ヤマト〉は真っ二つで、残骸を調べようもなくなっていたかもしれない。
それを思えばこの結果は――と、考えたときだった。シュルツは眺める映像にふと奇妙なものを感じた。地中の海から噴き出す水は急速に凍りついていて、穴を塞いで固まりつつある。みるみるうちに水の勢いは弱まって、水煙は雪に変わって周囲に吹き流れていく。
その中から、それまで黒い影としか見えていなかった船の形が、徐々に姿を現してきた。確かにビームに貫かれ、真っ二つになってしまったものとわかるが、しかし――。
「これは!」
叫んだ。シュルツは己(おの)が眼を疑う思いで画面を見つめた。今まで〈ヤマト〉と思いながら見ていた船は〈ヤマト〉ではない! そこでふたつに分かれながら、まだ宙をクルクルとまわっている物体は――。
こちらの戦艦! どういうことだ。ならば〈ヤマト〉は――。
そう思ったときだった。その船の下、地球人の〈スノードーム〉とか言う置物をひっくり返したかのような舞い散る雪の中から黒く、細く長い物体が姿を現したのが見えた。そのシルエットはまさしく、
「ヤマト……」愕然とする思いで言った。「なぜだ!」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之