敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
魔女の棲家
古代の故郷、三浦の海は岩礁(がんしょう)の海だ。海岸線は岩だらけで、ゴツゴツとした崖に波が打ち寄せる。そこに立って陸地を臨めばまるで巨大なドミノ板を並べて突き崩したようなギザギザの岩山。その昔に地の隆起でそのような形になったものだと言う。
古代の〈ゼロ〉は今そんな三浦の磯によく似て見える岩山の上を飛んでいた。あるいは、まるで巨大なワニの背中か、ゴムタイヤを山積みにしたトラックの荷台の上でも飛んでるような――キャノピー窓の向こうに広がる光景に古代は目眩(めまい)がしそうだった。
眼で見たところで何がなんだかわからない。地形がゴツゴツのギザギザなところに、横から照らす太陽のためにゼブラ柄の影がかかって、物の形がまったく掴み取れないのだ。
今までずっとそうだったが、ここは輪を掛けて凄い。直感的に、『ここだ』、と思った。ここだ。ここに〈魔女〉が居る。三浦の磯にサザエの殻を置くようにして、このゴチャついた岩山のどこかに砲台を隠しているのだ。
そうに違いないだろう。レーダーマップに眼をやれば、〈ヤマト〉に『飛べ』と指示された〈線〉も終わりに近づいている。これまで飛んで見てきた中に特にめぼしいものはなかった。
しかし今、この眼前に広がる光景――。
『隊長、ここだぜ!』通信で加藤が叫ぶ声が聞こえた。『ここだ! 〈魔女〉が居るのはここだ!』
「ああ!」
と応えてから、どうすると思った。これではほとんど肉眼で〈魔女〉を探すのは不可能だ。各種のレーダーやセンサーも、強い障害を受けて画面がノイズだらけになってる。〈ゼロ〉の速度を弱めさえすればなんとかなるかもしれないが、それをやったら上からダイブで襲ってくるあの〈ゴンズイ〉のいい餌食。おれはともかく、また〈タイガー〉がおれの盾になって殺られてしまうことに――。
どうする、と思った。そうだ。どうせこの辺にあるに違いないのだから、核ミサイルでみんな丸ごと焼いてしまえばいいのじゃないか。それで〈魔女〉も――。
そう思ったときだった。急にひとつの装置が何かの反応を捉え、画面に映し出したのが見えた。古代は拡大させてみる。
赤外線カメラが写す映像だった。地下に高熱の存在を探知。それもみるみる凄まじい温度に――。
「これは――」
と言った。そのときだった。目も眩(くら)むほどの閃光が、ワニ皮のような地表を包んだ。光線の太い柱が天に向かって立ち上がる。
対艦ビームだ。それも超強力なやつだ。間違いなかった。〈ゼロ〉のあらゆる探知装置が、その発生ポイントを捉えてレーダーマップに〈目標〉として描き込む。
〈魔女〉だった。〈スタンレーの魔女〉がわざわざ自分から居場所を教えてくれたのだった。しかし、それはまた同時に――。
『〈ヤマト〉が撃たれた』と言うことなのか? 古代は考え、慄然とした。ならば、今度こそおしまい?
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之