敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
二方向から
「そ、そんな……」
と、異口同音(いくどうおん)にふたりの男が、ふたつの場所でつぶやいていた。ガミラス戦艦三隻のうち、たったいま一隻殺られた残り二隻の艦長達だ。ふたりの見る画面には、それぞれの船の望遠カメラが百二十度違えて捉えた金色の夜桜吹雪の中の〈ヤマト〉。
二隻の船は今はどちらも〈ヤマト〉に砲を向けてはいない。同士撃ちを避けるため、すべての砲は真横に向けていたからだ。三隻で三角を作ってグルグルまわり、その真ん中に〈ヤマト〉が来たら〈Y字砲火〉でズタズタにする構えを取っていたのは、むしろそのようにすることで〈ヤマト〉を海中に閉じ込めて、氷を割って出ては来られぬようにしようとの考えだった。〈反射衛星砲〉の援護がある限り自分達が敗けることなど有り得ない――彼らはそう考えていたのだ。
それがまさか、あんな……あんな……。
「錨……?」
と、一方の艦長が言った。彼の船から〈ヤマト〉はほぼ六十度斜め前方の方角にある。
「錨だと……?」
と、もう一隻の艦長が言った。彼の船から〈ヤマト〉は六十度斜め後方に位置している。
それぞれが見る画面の中に、〈ヤマト〉の艦首から鎖が伸びて、彼らの僚艦であったものの残骸に錨で繋がっているのが見える。それはもはや空中に浮く力を失って雪とともに地に落ちるかのように見えたが、そこで〈ヤマト〉が船体を大きく振って動き始めた。その動きに引きずられて、繋がったものが浮き上がる。
やがて加速がつき始めた。〈ヤマト〉はその場でグルグルとまわって鎖で繋がったものを振り回し始めた。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之