敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
「諸君」と藤堂は言った。「今のでわかっただろう。ここで我らが怒鳴り合って何かが変わると考えても間違いなのだ。宇宙のことは沖田に任せて、我々はとにかく今日という日にこの地下都市の人々を生き延びさせねばならんのじゃないか。〈練炭心中〉は〈ヤマト〉が敗けるのを見た後でもいいだろう。それまでは、沖田がきっと勝ってくれると信じて事を運ぶのだ」
「それはそうですが……」
と声を上げる者がいた。ヘタなことを言えば藤堂もまた拳銃抜いてバンバン撃ちはしないかと怯えているような表情だ。
藤堂は言った。「〈ヤマト〉が必ず勝つ保証などありはしない。もちろんだ。これは戦争なのだから……人類はもう滅亡してしまった。昨日のうちにわたし達みんながもう〈死んで〉しまった。わたし達は生ける死人だ。ひょっとしたらとっくの昔にもう誰もが〈死んで〉いるのかもしれない。それに気づかずこの地下をさまよい続けているだけなのかも……」
「長官……」
「だが、それでも我々は、まだ魂を持っている。〈ヤマト〉が沈めば今度こそ人が終わりであるのなら、今日がこのようになってしまうのも当然だろう。空気の循環も停電も復帰させずにこのままの方がいいのかもしれない。窒息死よりは一酸化炭素中毒の方がまだ苦しみは少ないのだろうから。しかし、この会議室にいる我々は楽に死ぬことは許されん」
マルチスクリーンをまた見やった。火災に混じってまだあちこちに銃火らしき光が見える。藤堂は言った。
「〈ヤマト〉だけのことではない。この地下でもまだ戦っている者がいるのだから……我々は最後まで見届ける義務があるのだ」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之