敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
「よかろう」と言った。「まさに見上げたものだ。相手にとって不足はないと言うものではないか」
「はい」とガンツ。「たとえ〈ヤマト〉が波動砲を撃てるとしても、我らには……」
「〈反射衛星砲〉か」頷いて言った。「だが、わかっているだろうが、くれぐれも……」
「もちろんです。地球人には、最後の希望が潰えるさまをタップリと見せつけてやらなければならないでしょう。もっとも、今は内戦でそれどころではないかもしれませんが」
「最後は同じ地球人同士で殺し合って死ぬか。まさかそのような終わり方になろうとはな。あの〈ヤマト〉はそれをも防ぐ気なのだろうが」
「〈やまと〉とは、あの〈ジャパン〉という国の別名のようですね。あの星の歴史の中でかつて一度も他国から侵略を受けたことがない。すべてハネのけてきた国の名だとか……」
「ほう」
「マゼランという男がいたそうです。〈太平洋〉とやつらが呼ぶ海を見つけ、その名を付けた男とか――その男が〈西〉と〈東〉を繋いだために、後に続く者達によって〈太平〉であったあらゆる国が大砲を積む艦隊に征服された。原住民は奴隷化され〈キリスト教〉とやらへの改宗を迫られた。刃向かうならば死あるのみ」
「降伏か滅亡か? まあ、我らがとやかく言えたものではないがな」
「〈マゼラン〉の名は蹂躙された側から見れば〈侵略者〉の代名詞であったとか。〈ジャパン〉もまた〈マゼラン〉に見つけられ、キリスト教の支配を受け民が奴隷にされかけたと言われます。だが、〈サムライ〉と呼ばれる者らが内戦で荒れていた国を統一し、エイリアン(外敵)を立ち入れさせぬ国に作り変えたとか――」
「それが〈やまと〉。あの船の名か」シュルツは言った。「〈侵略者マゼラン〉を寄せ付けなかった国の名前? だが今では、あの船こそが〈マゼラン〉だ。この星系を出たならば、次はやつらがエイリアン(宇宙人)……」
「はい。あの船はやつらにとっての〈北〉と〈南〉を繋ごうとしている。地球人は我らの里にも〈マゼラン〉の名を付けている。マゼランでテラリアン(地球人)はエイリアン(異邦人)。それが宇宙の法と言うもの。やつらの言う〈イスカンダル〉とは間違いなく……」
「エウスカレリア」
と言った。しかしこれも、地球人には正確に耳で聴き取ることはできずむろん発音のできぬ言葉だ。
「だろうな。つまるところにこれは、マゼラン対マゼランの戦いと言うことになるのか」
「やつらが真実のすべてを知れば、そう言うかもしれませんね」
「かもしれんな。だがそうはさせん」シュルツは言った。「〈ヤマト〉か。あれは今日ここで、わたしが沈めることになるのだ」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之