敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
〈ヤマト〉の秘密
「それで? 秘密ってなんの話だ」
斎藤は言った。第三艦橋。メチャメチャにされたラボから負傷者を連れてやっと抜け出してきたところだ。
「敵は〈ヤマト〉を完全には破壊せず中を調べようとしている。主砲とかサブエンジンの力はこっちが上だから技術を盗もうとしていると、そういうことか」
「ええ、それもありますが……」
とさっきの部下が言う。もう空気も重力もある区画に入ったので通信機を通さぬ直(じか)の声だ。
地球は決して科学技術でガミラスに劣ってはいない。この八年の戦いがそれを証明しているのは確かだ。ガミラスは波動エンジンを持つがゆえ地球の船を圧倒するが、それ以外はむしろ劣る。地球人にはガミラスより火力だけなら強い船、速度だけなら速い船を造ることさえ可能だった。
この〈ヤマト〉は地球初の波動エンジン船である。これでガミラスと互角どころか、従来の技術によって敵を凌駕(りょうが)する性能を持つ。〈ヤマト〉の火力と速力は、十のガミラスを相手にして楽に勝たせるものであろう。
強さの秘密は主砲とサブエンジンにある。ガミラスが〈ヤマト〉を拿捕して技術を盗みとろうとするのは当然のこととも言えるが、
「それだけじゃありません」とラボの科学部員は言った。「砲やエンジンの技術なら、〈ヤマト〉でなくても他にいくらでも船はあります。〈ヤマト〉だけが持っていて、敵がどうしても欲しがりそうな技術と言えばひとつだけです」
「って、つまり――」
「ええ」と言った。「波動砲です」
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之