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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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出血多量



「艦内負傷者多数。医務要員が対処しきれぬ状況です」

第一艦橋で森が言った。船務科がまとめて送ってくる〈ヤマト〉の艦内状況はサブのマルチスクリーンに常に映し出されている。そこに死傷者の数字も出ている。だからケガ人が多く出たのは、わざわざ口に出さずとも誰でも見てわかることだが……。

血まみれの医務室と、その前の通路もカメラに映っている。百や二百では利かない負傷者。

真田が画面を見て言った。「まずいな」

相原も言う。「こんなの見たことがない……」

「ええ」と新美。「普通はこれほどのケガ人が出る前に沈められてしまうものです。船はふたつにヘシ折れて、クルーはみんな宇宙に吸い出されておしまい。それが宇宙の戦いと言うもの……」

カチャカチャと機器を操作して、

「けれどこの戦いは違う。ケガ人こそ多いですが、今のところ死亡はせいぜい十二、三というところのようです。外に吸い出されない限り、ケガを負っても滅多に死ぬことはないというのが現状らしい……」

相原がまた、「それは敵がわざとそのように調節したビームを撃ってきてるからだろ」

「そう。その代わりケガ人多数。そのほとんどが出血多量で、血がないから動けない……非常にまずい状況です。このままでは〈ヤマト〉そのものが、〈出血〉で戦えなくなってしまう」

「それがやつらの狙いってわけか」

言って相原が沖田を見た。しかし沖田は黙ったままだ。

出血多量の負傷者多数? 森は損害状況のモニター画面を見直してみた。どうせもはやビームは自分がどうにかすれば躱せるという段階にない。

船の加減速によってビームをなんとか躱せるのは、星から何十万キロも離れているときだけだ。〈ヤマト〉はもう冥王星の薄い大気に触れる高さの空にいる。砲がどこにあろうとも撃たれて十分の一秒で〈ヤマト〉に届いてしまうのだから、もうまったく躱すなんて思いもよらない。

船務士は、艦橋にいる間はオペレーターになりきらねばならない。けれど自分の部下達は、船内で皆を支えて戦っている。そして今、船の中は血まみれだと叫んでいる。

乗組員千百名のうち、三百近くがすでに死傷し戦闘不能になってしまった。その多くが〈赤〉コードの砲雷科員に機関科員。この調子であと百人やられたら、〈ヤマト〉はまったく戦闘不能となってしまうことだろう。

それが敵の狙いなのかと相原は言った。そうだ。確かに、敵の狙いは波動砲。〈ヤマト〉をなるべく壊さずに〈坐礁〉させるつもりなのなら、乗組員は多く死ぬより出血多量でみんな動けなくなる方が敵にとって好都合。

だからわざとそのようにビームを調節してきている。その結果が血まみれの医務室――いけない、と思った。今、〈ヤマト〉は完全に敵の罠にはまっている。あと数発ビームを喰らえばそれで終わりだ。艦長はこうなることは承知していた、力を合わせてしのいでくれ、などと言ったが、しかしこれでは……。

森は艦長席を見た。だが沖田は腹痛でもこらえるように、顔をうつむけ黙り込んだままだった。