敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女
シュルツの狙い
「〈ヤマト〉が注意エリアを出ました。また砲撃が可能です」
冥王星ガミラス基地指令室でオペレーターが告げる。シュルツは「よし」と頷いてから、
「ふうむ。これまでに命中十四、五回。うち直撃が六、七発というところか。どの程度効いているのだろうな」
スクリーンを見て言った。画面に写る〈ヤマト〉はすでにあちらこちらから煙を吹いてズタボロとなり、宇宙をヨタヨタ飛んでいるように見えるが、
ガンツが言う。「わかりませんね。このようなやり方では」
「まあやむを得んだろうな。理想を言えばビームが一発当たるたび、あの船の中で動けなくなる者が何十人か出るけれど、船そのものには大きな損害がない、というところだが」
「何発かはうまくいったのではありませんか? あと二発も喰らわせてやれば、あれはおそらく戦闘力をほとんど失ってしまうのではないかと……」
「油断するなよ、ガンツ」
シュルツは言って、それから砲の射撃オペレーターに向かった。
「〈カガミ〉は充分に残っているのか?」
「残っています」とオペレーター。〈カガミ〉と言うのはもちろんビーム反射衛星のことだ。「ですが……」
「『充分』とは言えなさそうだな」
「はい……何しろ、一発撃つたび、〈ヤマト〉に殺られてしまいますので」
「そうなるのは仕方がない。あと何発撃てるのだ」
「それは〈ヤマト〉に当てるまでに何回反射させるかによって変わってきますが……そうですね。あと五発か、多くても七発……」
「フム」
「充分でしょう」ガンツが言った。「それだけあれば、〈ヤマト〉を充分弱らせられます。そこへ戦艦を送ってやれば、後は容易く……」
「だから、『油断するな』と言うのだ。まだ〈カガミ〉を全部使い切るわけにはいかん。イザというときのため、一発二発は撃てるよう残しておくべきなのだ。全出力でビームを直撃させてやれば、一撃で奴を沈められるのだろう?」
オペレーターが、「間違いなくそのはずです」
「その保険を残しておかねばならんのだ」
「しかし」とガンツ。「それでは、波動砲を無傷で入手というわけにいかなくなるでしょう。総統閣下の御命令に背くことになりますが」
「だから、『保険』と言ってるだろう。イザとなればの話だ。あの船をこの星系から出してはならん。場合によっては、我らの命に替えてでもそれを止めねばならんのだ。その使命は波動砲の奪取以上に重要であるのを忘れるな」
「はっ、申し訳ありません」
「とは言っても、そろそろこちらも戦艦の出番であるのも確かだろうな。準備は出来ているのだろうな」
「はい。全艦、すぐ発進可能です」
「よかろう。しかしそのためにも、もう少しあいつを弱らせたいところだな。何よりもあの主砲とエンジンだ。あれを潰してやればそれこそ〈ヤマト〉は戦えない船となるだろう。なんとかうまく狙えんのか?」
「やってみましょう」
オペレーターはニヤリと笑って計算を始めた。シュルツはスクリーンを見て、これはガンツが『もう楽勝』と言うのも無理はないかと思った。
煙を吹いてヨロヨロ宇宙を進む〈ヤマト〉。姿勢制御にすでに支障をきたしてしまっているのが窺える。これなら主砲かサブエンジンを狙い撃つのも容易だろう。奴の強みがそこにあるのもわかっていることだから、残りの〈カガミ〉をそれに使ってやれば……。
あの船はもう戦えない。そこを捕らえて勝負ありだ。ガンツが余裕の笑みを浮かべて横にいる。シュルツも顔がほころぶのを抑えることができそうになかった。
作品名:敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女 作家名:島田信之