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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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情景を浮かべろ



〈ヤマト〉戦術科の部屋では、敵の対艦ビームの謎を探る作業が続けられていた。

一体、あの衛星はなんだ。ひょっとすると地球で誰か、似た兵器を考えた者がいるかもしれない。だから資料をあたってみろと言われて膨大なファイルを探し、これまでに得たデータを元に砲の秘密を明かそうとする――けれども、それは先ほどまでの話だ。今は全員がその手を止めて、〈アルファー・ワン〉が送ってきたと言う和歌をコンピュータの画面に出して眺めていた。



  心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどわせる白菊の花



「こんなものを見せられても……」「一体どういう意味なんです?」

みな当惑気味だった。歌に関する説明は横に表示されている。それによると現代語訳は、

《もし手折るとするなら、当て推量に折ってみようか。初霜が真っ白に置いて、見る者を惑わせている中の白菊の花を》

「ますますわかんない。なんなんですかこりゃあ?」

副戦術科長がインターカムに向かって言った。それに応えて艦橋からの新見の声が、

『意味とかは、考えなくていいと思うの。単純に表面だけを追えばいい。古代一尉は読み札なんか一度も見たことないらしいから……』

「はあ」と言った。「そう言われても……」

手でカチャカチャとキーボードを叩いていった。歌の意味を解説する文章が表れる。秋が深まり冷え込んで、ある朝ついに霜が降り、庭が真っ白になっているのを見た男の心を詠んだ歌であるという。〈彼〉は思う。ヤレヤレ、植えていた白菊が、これではよく見えないなあ。適当に手を伸ばしてみたら、一本ポキリと折り取れるかも……。

「なんなの、これ? なんなんですか!」

『だから、「意味は考えるな」と言うのに……』

科員のひとりが横から言った。「『表面を追え』と言うよりも……」

「なんだ?」

「いえその、『耳で聞け』っていうことじゃあないですか。古代一尉はこの歌を音で覚えてるんでしょう」

「音で?」と言った。コンピュータの画面を見て、「これ、音声化できるのかな」

「そんなのより、自分で詠んでみりゃいいじゃないですか。心当てに――」科員は唱えた。「折らばや折らむ――」

すると一緒に、「初霜の――」と声を揃える者が出てきた。さらに続いて、「置きまどわせる――」と何人かが言った。そして最後の「白菊の花――」でまた数人が加わった。

それからもう一度、全員で、歌を最初から合唱した。

しかし、

「どういう意味だ?」「さあ」「やっぱわかんない」

と、結局首をひねった。艦橋で新見がガックリきている顔が画面に映る。

『だから、「意味を考えるな」と言うのに……』

「そう言われても」

――と、そのときひとりが言った。「『情景を思い浮かべろ』ってことですかねえ」

「ジョーケーだ?」

「ええ……だって、そういうもんなんでしょう。耳で聴いて、情景が思い浮かぶ……そうして初めて、奥にある本当の意味が見えてくる……」

『そうそう、それよ。きっとそれよ』

新見が言った。副科長は画面に映る自分の上役を、飴玉でもついうっかり飲み込んでしまったような顔になって見た。

『情景を思い浮かべるのよ』

「はあ」

「白菊の花……」とひとりが言った。「それはあの衛星のことでしょう。冥王星は全体が一酸化炭素とメタンの霜に覆われている。ビームが眼を惑わせて……」

「それは変でしょう」とまた別のひとりが言った。「〈アルファー・ワン〉がいるのは星の南極よ。〈ヤマト〉はずっと北半球をまわってたのに、なんであっちで〈ヤマト〉を狙うビームが見えるの?」

「え? それは……」

「そうだ。向こうは死角のはずだ」とまたまた別のひとり。「なんで星の反対側で、こっちのビームが見えるんだ?」

「いや、でも……」

「まあ待て」副科長は言った。「とにかく、何か見えたから、〈アルファー〉はこの歌を送ってきたんだ。こう……」

タッチペンを手に取って、冥王星を画(え)に描いた画面の上で動かした。星のまわりに〈コ〉の字型の線が引かれる。

その画像に戦術科の科員全員の眼が集まった。

「え?」

とひとりの科員が言った。また別の者が、

「折らばや、折らむ……」

「って、まさか……」

だがまさかの話ではない。全員が目を見開いていた。インターカムの画面の中で新見も驚愕の表情だった。

そのうちにひとりが言った。

「そうだ。これだ。きっとこいつだ……」

コンピュータのキーボードをカタカタ叩く。その画面に表れたものに、また全員が釘付けになった。

開かれた文書。そのトップに、こんな語句が記されていた。

《衛星反射ビーム》。