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敵中横断二九六千光年3 スタンレーの魔女

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真田の策が狙い通りにいくかどうか……どうなのだろうと森は思った。おそらく副長は自分の席で、薄氷を踏む思いでいるに違いない。だが振り向いてそれを確かめるわけにはいかない。自分の眼と手にまずはすべてがかかってしまっているのだから。

ドクドクと胸が鼓動を高めるのを森は感じた。レバーを握る手のひらが汗ばんでいるのがわかる。

今の〈ヤマト〉はメイン・サブともエンジンが切られているため、急な加速は行えない。対艦ビームが来たならば、避ける手段は急ブレーキのみなのだ。それがこの手に託されている。古傷の痛みが残るこの右手に……。

息が苦しくなってきた。腕の疼きが強まってくる。まるで誰かに掴まれて捻(ねじ)り上げられているかのようだ。レーダーの画像に森は集中しようとした。だが映るのはノイズだらけの歪んだ像で、グニャグニャと動く迷路を無理矢理に眼でたどるように難しい。

たちまち眩暈に襲われかけた。頭がクラつき、昏倒しそうになるのがわかる。とても長く見続けられるものであるとは思えない。

それでも見なければならないのだ。森は必死に画に眼をこらした。雨の日の水たまりを見るかのような画面の中で、冥王星とカロンが揺れる。その間の空間を無数の蛍が飛び交っている。蛍の群れは形を取って、人の顔に見え始めた。

女の顔だ。笑い顔だ。森は母の顔だと思った。嘲笑いを口に浮かべて自分をじっと見下ろしている。子供の頃、いつもそうしてきたように。

魔女だ、と思った。これは〈スタンレーの魔女〉だ。魔女がわたしを笑っている――。