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Green Hills 第2幕 「雨」

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Green Hills 第2幕 「雨」 


 第五次聖杯戦争は終結した。
 残ったのは衛宮士郎と遠坂凛、そして、それぞれのサーヴァント二体。
 誰かに表彰されるなど、そういうことは一切ない。ただ、安穏が訪れたというだけだ、衛宮邸に。
 そして、セイバーであったシロウには、試練が待っている。
 廊下で仁王立ちしてこちらを見下ろす屈強の男に、シロウは身を縮めた。
(うぅ……、どうしてこんなに不機嫌なんだ……)
 ビクビクとその顔を窺い見る。
 黒の上下に浅黒い肌、目を引く白銀の髪、そしてガラスのように透明で冷たい鈍色の瞳。
 細身の身体をさらに縮めてその男を見上げるシロウは、対照的に白のシャツとブルージーンズ、髪と瞳はこの世界の衛宮士郎と変わらない色合いを保ち、ほとんど容姿も変わらない。違うのは、身長があることと、透けるように肌が白いことだ。
 同じエミヤシロウでありながら、ここまで違ってくるものかしら、まるでオ○ロね、と凛が呆れながらつっこみを入れていたのは夕食時のことだったか。
「それで」
 腕を組んだままアーチャーはシロウを見下ろす。
「え? 何?」
 さらに眉間にシワが寄って、シロウは半歩下がる。
「貴様の言っていたことだ」
 苛立ちを声に乗せてアーチャーは訊く。
「あ、あああ、う、うん、えっと、す、座って話そう、お、お茶、淹れるから、な?」
 しどろもどろで言うと、
「貴様と茶を飲む趣味はない」
 とムベもない。
 う、と言葉に詰まるシロウを放置で、アーチャーは居間に入る。
「え? あれ?」
「さっさと淹れろ」
「趣味はないって今……」
 じろり、と睨まれシロウは、こくこくと頷き、台所に入った。
「ど、どうぞ」
 アーチャーの座る前に湯呑を静かに置く。無言で手に取ったアーチャーは一口飲んで、
「む」
 と眉間にシワを寄せた。
「ど、どうした? 不味かったか?」
 向かいに座りながらシロウが慌てて訊く。
「いや……悪くない」
「…………だったら、もうちょっと美味しそうに飲めばいいのに」
 あらぬ方に吐いた呟きをアーチャーは拾っている。睨まれて、なんでもないです、と、わたわた手を振って、シロウは誤魔化そうとした。


「それで、えっと、俺は、別次元のエミヤシロウで……」
 座卓を挟み、アーチャーと向き合って、シロウは話しはじめた。
 自身の聖杯戦争、アーチャーとの一騎打ち、交わした剣戟の中で触れたアーチャーの苦しみ。それを打ち負かして、アーチャーに答えを得たと言わしめた事、やがて自分が後悔のない道を選べたこと。そして、いまわの際に願ったこと。
 全てを話して、シロウは湯呑に手を伸ばす。
「それを、伝えたかった……、あんたに」
 沈黙が下りる。シロウが湯呑を置く音がやけに大きく響いた。
 家主である士郎と、アーチャーのマスターである凛はすでに就寝している。戦い続けた日々が終わったのだ、半日経ったとはいえ、夕食後はすぐにそれぞれ部屋に戻っている。疲れを癒すためにも、二人にはゆっくりと休息する必要があった。
 そして、シロウはアーチャーに話している、自身の存在理由を。
「……そんなことのために、貴様はサーヴァントへの誘いに乗ったのか」
「え……?」
 アーチャーの非難めいた声にシロウは瞬く。
「貴様、聖杯が壊れているから破壊したのだろう。聖杯が壊れていると知っていて、その聖杯の誘いに乗って、そんなくだらないことのために、サーヴァントになったと言うのか」
 呆れるというよりも苛立ちを含んだアーチャーの言い様に、シロウは呆然としてしまう。
「なんのつもりか知らんが、私にそれを伝えたところで、どうするつもりだった。まったく、くだらんことをして。輪廻の環からから外れて、わざわざサーヴァントになっただと? 貴様はエミヤシロウのなかでも、一番の愚か者だな」
 言い捨てたアーチャーは居間を出ていった。シロウは声も出ず、アーチャーをただ見送るだけだった。


「くだらない、だってさ……」
 眠れずに窓の外を見る。
「セイバー……、俺、どうしよう……」
 騎士王の面影を浮かべる。優しく微笑む彼女は、金糸を揺らして、いつも自分を元気づけてくれた。彼女の剣を借り受けたのに、そんなことまでしてここに来たのに、くだらない、と一蹴されてしまった。
 せめて安堵した、と言ってくれたら、いや、言葉ではなくても、一瞬の安堵の表情でもよかった。それだけでも、自分が伝えにきた意味があるというものだ。
 だが、アーチャーは眉一つ動かすこともなく、不快そうな顔でこちらを見ていただけだった。
「そう……だな……、余計なお世話だ……」
 今さらながら思い至る。
 伝えたいと思ったのは、自分の身勝手であって、アーチャーに何を頼まれたわけではない。ただの自己満足で、それを伝えられたアーチャーは自身の与り知らぬことに、何をどう答えればいいというのか。
 アーチャーにしてみればいい迷惑だろう。いきなり、お前のおかげで、などと言われて、輪廻の環から外れてまで伝えに来た、と言われても……。
「どう……しよう……」
 苦しくなってきて胸を押さえた。
 片膝を引き寄せ、魔力温存のために眠らなければと思いながら、眠れずに夜が終わるのを、シロウはただ待っているだけだった。



***

「最近、雨が降り出したんだ」
「はい?」
 凛はいったん空を見上げて雨雲など一切ないことを確認してから、顔を顰めて士郎に訊き返す。
 屋上で昼食を食べ終わった士郎がおもむろに話しはじめた。
「セイバーの心象世界にさ」
「あ、えーっと、剣が立ってる?」
 凛は自らのサーヴァントの心象世界を思い浮かべる。重苦しい血気に澱んだ剣の荒野。
 あれをセイバーも持っているのかと、エミヤシロウはどこの世界でも変わらないのだなと凛は思う。
「それそれ」
「雨なんて降るんだ」
 物珍しいものでも見たような顔で凛は、へえ、と興味を示している。
「しとしとしとしとって……」
「なんだか……、鬱陶しいわね」
「うん。確かに鬱陶しい。じめっとしていて」
 士郎が眉根を寄せて言うので凛は笑ってしまった。
「で? それがどうしたのよ?」
「あー、うん、あのさ、セイバーの世界はさ、剣が突き立った、緑の丘なんだ」
「緑の、丘?」
「うん、青空の下に草原が広がっていて、いっつもあったかい風が吹いていて、大地にはたくさんの剣が突き刺さっているけど、その大地には草花が一面にあるんだ」
「アーチャーとは別世界ね」
 驚いたように呟いて、凛は士郎の話に聞き入る。
「うん。すごく対照的だろ?」
 こくこく、と頷く凛に士郎も頷く。士郎もアーチャーの剣の荒野を知っているから、その二つの世界が真逆なのだとわかる。
「セイバーはさ、アーチャーに生きる道を教えてもらったって、言ってたんだ」
 剣の荒野を持つアーチャーが、真逆の世界を持つシロウに道を示した、という事実に驚きつつ、複雑なエミヤシロウという存在が、凛には正直不可解でならない。
「あの二人はさ、ちょうど背中合わせみたいなものなんだろうなって……」
「そうねぇ、心象世界だけを見ると、そう見えるわね」
「遠坂には、あの二人、どう見える?」