二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Green Hills 第2幕 「雨」

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「んー、セイバーは、いまだにアーチャーを追っかけてるように見える、かな?」
「追っかけてる?」
「そ。聖杯戦争の時は目元が見えなかったからわからなかったけど、今はちゃんと目が見えるじゃない? だから、すごくわかるのよ、セイバーはずーっとアーチャーを見てる。目だけじゃないわね、感覚でも感じている。なんていうのかな、こう、憧れの人を前にして、って感じ?」
 凛が宙を見ながら言う。
「あー、それはあるのかもな。俺もアーチャーには正直憧れるから」
「あら、セイバーじゃないの?」
「もちろんセイバーにも憧れる。だけど、アーチャーは別格っていうかさ、もう、こう、なんていうか、雲の上! みたいな!」
 なんだかアイドル談義のようになってきたわね、と凛は少し呆れて小さく笑う。
「そっかぁ、あんたたちにとって、アーチャーは雲の上の人なのね。セイバーにとっては、アーチャーは師匠みたいなものかしら?」
 そうかもしれない、と士郎は頷き、そして、ふ、と息を吐く。
「ずっと晴れてたんだ。聖杯戦争の時もずっと。なのに、この間から雨なんだ」
「雨ねぇ……。どうしたのかしら」
「話すことができたって、笑ってたんだ、セイバー。俺に、ありがとうって、言って……」
 士郎は目を伏せて、缶コーヒーを一口飲んだ。
「えっと、それってセイバーがアーチャーに伝えたかった、ってやつ?」
「うん、そう。あの時、契約してくれたおかげで、話すことができたって笑ってたんだ。だけど、どこか落ち込んでるみたいな気がしてさ。もしかして、アーチャーにはちゃんと伝わらなかったんじゃないかと思って……」
 沈んだ士郎の横顔を見ながら、こいつの頭の中はセイバーのことだらけね、と凛は呆れて目を据わらせる。
「セイバーは何を伝えたかったのよ?」
「後悔しなかったって、あんたのおかげで正義の味方になれた、って。セイバーはさ、そのためにサーヴァントになったから」
「…………何それ。そのため、ですって?」
 頷く士郎に、凛は眉根を寄せ、やがて、ため息をつく。
「どうしようもないわね、エミヤシロウは」
「どういう意味だよ、遠坂」
 ムッとする士郎に、
「あんたは、そんなバカな真似、しちゃダメよ」
 びしっと指を突きつけてくる。
「う、あ、う、うん」
 うろたえながらも士郎は頷く。
「それより遠坂、どうしようもないって?」
「そんなこと伝えられて、喜ぶと思う?」
「え?」
 士郎は瞬く。
「私なら、張り倒すわよ」
「え……」
 今度は青くなって士郎は凛からやや距離を取った。何もしないわよ、と凛が笑うので、士郎はほっと胸を撫で下ろす。
「ねえ、士郎、その雨って……、泣いてるんじゃないの?」
「え……?」
「セイバーは、ずっと伝えたかったことを話したんでしょ? そんな愚かだって丸わかりのことを」
「愚かって……」
 眉を下げる士郎に凛は、当たり前でしょ、とムベもない。
「そんなの愚か者のすることよ。自分勝手にもほどがある。結局は自己満足の話だもの。あっちの衛宮士郎は、ずいぶん自己中なのね」
「そ、そういうことじゃ、ないんじゃないかな?」
 士郎はそれなりにシロウの切なる想いを知っている。だからこそ、ギリギリのところで契約して、しっかりとアーチャーに伝えてほしかった。
「ずっと伝えたかったことを言えたのなら、晴れ晴れとしていて当然じゃない? なのに、雨が降っているなんておかしいわ。何か、そうね、アーチャーにコテンパンにやられたのよ」
「コテンパン? 小言、とか?」
「小言や厭味ならまだいいわ。だけど、相手はアーチャーよ。自分自身に対して、極端に厳しい奴よ。いくら別個体だからって、あいつは自分だと認識したら、とことん度外視よ」
「あ、ああ、うん、確かに……」
 思い当たる節がありすぎて、士郎はため息が出てしまう。
「厭味どころか、全否定もあり得るわね」
「うわ……」
 士郎は青ざめた。なまじシロウの想いを知っている上、彼の内面的な幼さを知っている士郎は心配になる。
「あいつ、見た目は大人だけど、中身はコドモなのに、そんなこと言われたら立ち直れないんじゃ……」
「コドモ? どういうこと?」
 凛が眉根を寄せて訊く。
「あ、ああ、えっと、聖杯戦争の時はキリッとしていたのに、今はダメダメだろ?」
「それは、士郎の魔力が少ないからでしょ」
「う……、そ、それも、あるけど! あいつ、中身はほんとにコドモみたいなんだ。ちょっとキツく言っただけでシュンとするし、なんでも自分のことは後回しにしちまうから怒ったら、この世の終わりみたいな顔して謝ってくるし、俺より年上のはずなのに、小学生みたいなところがあって、っていうか小学生、いやむしろ低学年と言ってもいいような……」
 だんだんと凛の顔も青くなってきた。
「えっと……、それって、アーチャーはもちろん、知らないのよね……」
「知らないと思うけど……」
 知っていて全否定なんてしたのなら、どんだけSなのってことよね、と凛は額に指を当てて唸ってしまった。
「コドモ……、コドモか……、そりゃ泣いちゃうわよね、夢いっぱいでスキップしていたところを頭から踏みつけられたようなものだもの」
「ス、スキップ?」
 士郎は凛の例えがイマイチわからなくて首を捻る。
 しばらくウンウン唸っていた凛はパッと顔を上げた。
「じゃあ、気晴らしに、セイバーを連れて遊びに行かない?」
「え? そんな気分じゃないだろう? それにアーチャーがいると、余計に気まずいだろうし」
「アーチャーは留守番させておくわよ。ね? 日曜日、セイバーを誘い出して」
 なんだかんだと言っても、面倒見の良さは相変わらずだな、と士郎は半ば強引に頷かされた。



***

 新都に行こう、と士郎に連れられ、交差点に着くと、凛が待っていた。
「遅いわよー」
「悪い、遠坂」
 そこでピンときたシロウは踵を返す。
「セイバー、どうした? 忘れ物か?」
「え、いや……」
 士郎に腕を引かれ、向き直る。
「あのさ、なんで、俺も?」
 シロウが自分を指さし、首を傾げて訊く。
「いいだろ、セイバーもたまには息抜きした方がいいって」
「そうよー、家に籠ってばっかりじゃ、カビが生えるわよ」
「生えないよ……」
 呆れて言いながら、シロウは二人に腕を引かれて仕方なくついていく。バス停に向かう間、前を並んで歩く士郎と凛に、
「あのさ、二人のデートじゃないの?」
「ち、違うわよ!」
「ななななに、言ってんだよ!」
 二人が同じような反応をするので、シロウは笑った。
「じゃあ、保護者同伴で、デートってことだー」
「だからっ、セイバー!」
 士郎が噛みつく。
「デートじゃないかー」
「違うって!」
「またまたー」
 ニコニコ笑うシロウに、顔を赤くした士郎は食ってかかる。
「なんだ、元気そうじゃない」
 士郎が言っていたほど落ち込んでいる様子は凛には見て取れない。士郎の早とちりかもしれない、と凛は気兼ねせずに今日は遊ぼうと決める。
「それにしても……」
 身長差はあるものの、見た目はそっくり同じの両名だ、兄弟かあるいは双子かと言われても文句は言えない気がする、と凛はひとり笑う。
 ケンカと言うほどでもなく、無駄口を叩きあう二人に、