Green Hills 第2幕 「雨」
「こいつの背中を押しただろう。何事もなかったからよかったものの、こいつがあのまま倒れて頭の打ちどころが悪く、全身麻痺にでもなったらどうするつもりだった」
とどめとばかりにアーチャーがたたみかける。
「そ、そんな、ワケ、が、あるか!」
「私は見ていたぞ。立派な傷害だ」
「ふ、ふん! しょ、証拠がなけりゃ、そんなもの――」
アーチャーが、す、と指を向ける。男はその指が示す先を目で追いながら振り返った。そこには店の出入り口を映す防犯カメラ。
「証拠なら、そこにある」
「…………す、すみませーん」
態度を一変、ぺこぺこ、と頭を下げて男は足早に去っていく。連れの女性は去っていく男を追いながら、アーチャーをキラキラとした目で何度も振り返っていた。
「貴様、何をしている」
呆れたような、安堵を含んだような声。
「あ、うん……悪い」
心音がおかしい、とシロウは胸に握った手を当てた。
動かないシロウに首を傾げつつ、アーチャーはシロウが持ったコートを奪い肩に掛ける。
「どうした。まだ歩けないのか?」
「あ、いや……」
アーチャーから半歩離れて、俯いたままシロウは、大丈夫だ、と答えた。
Green Hills 第2幕 「雨」 了(2016/5/27初出,10/3誤字訂正)
作品名:Green Hills 第2幕 「雨」 作家名:さやけ