二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Green Hills 第3幕 「砂嵐」

INDEX|6ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

「エミヤシロウの中では一番の古株だからよ」
「古か……、そ、そうかもしれないが、私はアレでもアレでもない」
 アレとアレで士郎とシロウを指すあたりがアーチャーのひねくれ度を彷彿とさせるわ、と凛は目を据わらせる。
「困ってるんだから、相談に乗ってよ」
「困っているのは衛宮士郎とセイバーだろう。私にそんな義理はない」
「義理はなくても、どっちも自分でしょ」
「私はあのような未熟者でも愚か者でもない」
「とか言って、心配なクセに」
「な……っ」
「心配なんでしょ、セイバーが」
「…………凛、私をからかって遊ぶつもりなら、もう行くぞ」
 踵を返したアーチャーに、凛は追い打ちをかける。
「気づいていないの? あなた、セイバーのこと、ずっと目で追っているのよ」
 驚いた顔で振り向いたアーチャーに、凛は勝ち誇ったように腕を組んだ。
「聞く気になった?」
 じっと睨んでくる従者に、凛も負けてはいない。やがて、顎を引いて頷いたアーチャーに、満足そうに凛は口を開いた。
「極端におかしくなったのは、先週の木曜あたり。何か心当たりない? 昼間、ここにいるんだから、何かあったらわかるでしょ」
「おかしくなったと、なぜわかる?」
 質問に質問で返すアーチャーに眉を顰めながらも、凛は士郎から聞いたままを話した。
「……砂嵐で何も見えなくなったって言ってるんだけど、どう思う?」
「緑の、丘……」
 今の状況云々ではなく、その心象風景に興味を示したようなアーチャーの鈍色の瞳が、少し遠くを見たようだった。
「アーチャーとは別世界よね」
 静かに言う凛の声に揶揄など含まれていない。
「ああ、そうだな……」
 素直に答えたアーチャーの声には、微かに羨望が含まれていた。
「それで? 何か思い当たる節は?」
 しばらくの沈黙の後、魔力を提供した、とアーチャーは白状した。
「魔力を?」
 やり方をどうこう、はっきりと説明はしないが、意識を失っていたために、応急処置的に提供をしたことだけを凛に告げた。
「そう……」
 凛はそれが原因だとは断定しなかった。魔力を提供しただけで、心象世界にまで異常をきたしたとは思えないからだ。
「ありがとアーチャー、ちゃんと話してくれて。だけど、セイバーがおかしいのとは、関係ないと思うわ。魔力が合わなかったとか、そういうことじゃないと思うのよ。同一人物で魔力が合わないなんて、ありえないだろうし」
 考えながら、凛はもういいわよ、とアーチャーを解放する。
 凛の部屋を出る時、
「少しあの半人前に、魔力の与え方を教えてやってくれ」
 アーチャーは、そう頼んで扉を閉めた。

 屋根の上へあがる。
 曇った空に月は見えなかった。だが、ほんのりと明るいのは、地上の灯りが雲に反射しているからだろう。
「砂嵐……」
 凛は関係ないと言ったが、明らかにあの日からだろう、とアーチャーにはわかる。
 自分がシロウに悪影響を与えたのだということがわかってしまう。
 ため息がこぼれた。
 “ずっと目で追っているのよ”
 凛の言葉に驚きつつも、納得していた。ただ、凛に気づかれるほどにあからさまだったとは、とアーチャーは額を押さえる。
 意識して排除しようとしても気になってしまう。いつも目で追ってしまう。
 思えば最初からそうだった。額当に隠れた顔を見てみたいと、ずっと思っていた。シロウの戦う姿が、潔さが、どうしようもなく眩しかった。
 誇りを持って、強い信念を持って戦う騎士だと思っていた。それが、蓋を開ければ過去の自分であり、しかも、自分に後悔しなかったと伝えるためにサーヴァントになった、などと言うのだ。アーチャーにとっては、寝耳に水どころか、断崖から突き落とされた気がした。
 どうしてだ、と、どうして自分を目的にしたりしたのか、と。
 エミヤシロウの理想は衛宮切嗣だったはずだ。彼の成し得なかった正義の味方を継ぐのだと、そういう愚かな理想だったはずだ。それがなぜ目的が自分になり、結果的に自分を目指し、追いかけた、ということになっているのか。
 ここではない平行世界で生き、あのセイバーとなったシロウに、自分は何を言い、何をしたのか。そして、どうしてそんな愚かな選択を選ばせてしまったのか。どうしてそんなふうに生きさせてしまったのか。どうしようもない悔いが湧いてくる。
 シロウがサーヴァントとなったのはアーチャーのせいではない。だが、どうしようもなく追いかけられた身としては、何かしらの責任じみたものを感じてしまうのだ。
「エミヤシロウはどの世界でも、愚か者、ということか……」
 苦い呟きは、夜の風に吹き消されていった。



***

「セイバー」
 布団を敷いていると、士郎に呼ばれる。
「どうした?」
 いつもの鍛錬を終え、部屋に戻った士郎が手招きする。
 シロウは、なんだろう、と近づき膝をついた。途端、首に腕を回され、士郎の布団に引き倒される。
「な、なに? 士郎?」
 突然のことに驚きながらも、シロウはされるがままで訊ねる。
「うん。今日は、こうやって寝よう」
「なんで?」
「魔力が届きやすいから」
「ふーん」
 シロウは特に文句も言わずに従う。そのまま、うとうとしはじめた。
「遠坂がさ、近くにいればいるほどいいって、教えてくれた。だから、今日は……」
 すう、と寝息が聞こえて士郎は口を噤む。
「なんだ、もう寝ちゃってる」
 小さな笑いをこぼして、おやすみ、と赤銅色の髪をひと撫でして、士郎も目を閉じた。



「あらまあ、愛らしいわねー……」
 目を据わらせながら凛は呟く。
 日曜日だからと言っていつまで寝ているのか、と凛が家主を起こしに来たら、主従仲良く一つの布団でおやすみしていた。
 士郎に抱き寄せられたまま眠るシロウは、サーヴァントであるはずなのに目も開けない。この光景を見た途端に殺気立ったアーチャーがいるというのに……。
「士郎に取られちゃったわね、アーチャー?」
 ヒクヒクと目尻を引き攣らせているアーチャーを見上げ、凛は目を細める。
「凛、それは、誤解を生む発言だ」
 眉間に深いシワを刻んだまま言ったアーチャーは、スタスタと居間へと戻っていく。
「何よー、誤解ってー。ほんっと素直じゃないんだからー」
 苦笑しつつ、凛はその後を追った。


「ずいぶんと、ご主人様と仲が良いようだな」
 縁側で布団を広げていると、蔑むように見下ろす鈍色の瞳。
「な、なに?」
 びくびくしながら訊き返すシロウに、アーチャーはムッとして眉間にシワを寄せる。
「まるで抱き枕のようだったな」
「な! あんた、覗き見――」
「人聞きの悪いことを言うな。凛が起こしに行った時に見えただけだ」
「あ、なんだ、そっか」
 布団を広げつつ、シロウは穏やかな笑みを浮かべる。
「魔力が伝わりやすいからって、士郎が気を遣ってくれた。おかげで今日は身体が楽だ」
 シロウがうれしそうに話すのを見て、アーチャーは苛立つ上に、モヤモヤとしてきてしまう。
「まあ、その分なら倒れることもないだろう」
 刺々しく言ったアーチャーは踵を返す。
「な、なんだ……? 文句を、言いに来ただけ?」
 何か用があったのではなかったのか、とシロウは首を捻る。