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Green Hills 第3幕 「砂嵐」

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「…………ぁ……」
 次第に頭が冷えてくる。だんだんと冷静になってきて、ゾッとした。
「俺は……何を……?」
 現界した身体は満たされていた。貧血状態のような眩暈もしない、身体が重く感じることもない。なのに中身が、心の中のものが、重りに引きずられて海溝に沈んでいくようなそんな感覚に陥る。
 魔力を補えたことに違いはないのに、有難味も何も感じない。
 それよりも、何かが剥がれ落ちた気がした。
 何か――自分の中の柔らかいものを、風に晒されるだけで崩れ落ちてしまいそうなものを、かろうじて包んでいた塗膜のようなものが剥がれた。
「………………」
 呆然と座り込んだままシロウは動けなかった。


「行くのか……士郎……」
 玄関で士郎が靴を履いていると、シロウが今生の別れのような顔で呟く。
「あ、うん。学校だけど」
「……そう、か」
「セイバー? どうした?」
「士郎……」
 俯いていたセイバーが意を決したように顔を上げる。
「セイバー?」
「俺も行く!」
 士郎の両肩を掴み、シロウはきっぱりと言い切った。
「何言ってるんだ、セイバー」
 呆れた口調で苦笑いを浮かべ、士郎はセイバーの手をあっさり剥がした。
「学校には行けないだろ? そんなの、知ってるじゃないか」
「ひ、一人は嫌だ!」
 まるで幼子のように、必死になって訴えてくるシロウに、
「子供じゃないだろ、セイバー」
 と、やはり呆れながら士郎は言う。
「こ、子供じゃ、ない、けど、ないけど!」
「はいはい、早めに帰ってくるようにするから、おとなしく留守番。いいな?」
 なでなでと頭を撫でられて、シロウは恨みがましく士郎を見つめる。
「それに、一人じゃないだろ? アーチャーもいるんだし」
 ぎくり、とシロウはそのクラス名を聞いて震えた。
 だから嫌なんだ、とは言えず、シロウは両手を合わせて拝む。
「一生のお願いだ! 今日、休んで!」
「一生って……、もう終わってるだろ、セイバーは……」
 ある意味酷いセリフを吐いた主は、シロウを相手にもせず登校していった。
 は、とため息をつき、肩を落としたシロウは、トボトボと居間へと戻る。
「どうやって過ごせばいいんだ……」
 昨日の今日で顔など見たくない。魔力は貰ったが、どんな顔で会えばいいのか、と朝食の後片付けをしながら、大きなため息を何度もついた。
「ため息をつくと、幸せが逃げると、言っていたぞ」
「っ!」
 ぎっくん、と背筋が伸びて総毛だった。アーチャーがカウンターの向こうに立っている。
「衛宮士郎に何を言った」
「…………な、何も」
「嘘をつくな。でなければ、アレが私にお前を頼むなど、あり得ないだろう」
「た、頼むって、士郎がっ?」
 驚いてアーチャーを振り返ってしまい、シロウは慌てて顔を戻した。顔の熱を冷まそうと深呼吸を繰り返す。
「し、士郎が、なんだって?」
「お前の様子がおかしいから、気にかけてやってくれ、と」
「あの……おせっかい……」
 思わず愚痴ってしまうシロウだ。
「ほう、主の悪口か。珍しいな」
「う、うるさいな!」
「他にも、確か、お前の理想の正義の味方なのだから、とか、なんとか――」
「ち、違う!」
 真っ赤になった顔でシロウが否定するので、アーチャーは口角を上げ、目を細めた。
「ほーう、私がお前の“憧れの人”なのだとアレは言っていたぞ?」
「ちがっ、ぜ、全然、違う!」
 食器を洗い終えて、シロウは俯いたまま否定した。
 台所から出てアーチャーの側を過ぎる。何かされるのではないかとびくびくしていたが、アーチャーはこちらを見ているだけで、何もしてこなかった。
 居間の障子を開けたところで、思い出したようにシロウは足を止める。
「き、昨日、言い忘れた。魔力、ありがとう」
 言うと同時に障子を閉めて逃げるように去ったシロウに、アーチャーは苦笑を浮かべる。
「顔を見ずに言われてもな……」
 呟いたアーチャーは霊体化した。



***

「なあ、遠坂」
「どうしたの?」
「なんか、セイバーがおかしい」
「おかしい? いつもと同じにしか見えないけど?」
「うん、同じなんだけどさ、砂嵐みたいになってて」
「はい?」
 凛が首を傾けて眉を顰める。
 屋上で昼食を取りながら士郎はこのところのセイバーの様子を話した。
 一見、普通なのだが、注意深く見ていたところ、少しぼんやりしていることが多くなったと気づいた。そして、彼の心象風景が一変してしまった夢を見たのだ。
「変って、あの緑の丘? どうなったの?」
「うん……、砂嵐で何も見えなくなってて……」
「砂、嵐……?」
「セイバーの様子も、なんか変だし、大丈夫かなって、さ……」
「どこらへんが変なの?」
「無理してるっていうか……」
「無理? しているかしら、いつもと変わらないように見えるけど……」
「泣きそうに見えたんだ」
「え?」
「一瞬だったけど、ほら、遠坂がアーチャーとなんか言い合ってた時……」
「あー、そうね、アーチャーとサーヴァントについて熱くなっちゃった時ね……」
「アーチャーが言っただろ、自分を含めた揶揄だったけど、なりたいと思う奴の気が知れない、とかって……」
「あ、そう言えばー……」
 聞こえていたのね、と凛は申し訳なさそうに士郎を上目で見る。
 台所で食事の後片付けをしていた士郎たちには、会話のほとんどが聞こえていたわけではない。聞き耳を立てていたわけでもないのだが、だんだんとヒートアップしていく凛とアーチャーの声は嫌でも聞こえてきてしまうほどになっていた。
 そろそろ止めた方がいいかと、シロウを見上げた時に見た横顔が、士郎には今にも泣き出しそうに見えたのだ。
「ごめん、ちょっと、気が利かなかったわよね……」
 凛は反省しつつ、ため息をつく。
「いや、俺にそう見えただけで、本当は違うのかもしれない。俺の勘違いかも知れないんだ。だけど、セイバーはやっぱりどこか思い詰めたような顔をしてるからさ……」
 ふ、と士郎は息を吐き、空を見上げた。雲が多いが青空が見えている。
「セイバーの心象風景って、元々は青空なんだよな……」
 凛に聞かせるわけでもなく士郎は呟いただけだが、凛がそんな士郎を放っておけるはずがない。
「ねえ、セイバーがおかしいって、いつごろから?」
「えっと、先週の木曜だったかな、俺がバイトの日だったから」
 その翌朝は、セイバーが学校に一緒に行きたいなどと言っていた。あの辺りから、本当にセイバーはおかしい、と士郎は改めて思う。
「木曜日ね……。一応アーチャーにも訊いてみるわ。エミヤシロウの中では一番の古株だし、何かわかるかもしれないものね。昼間は一つ屋根の下にいるんだから、何か気づいたことがあるかもしれないし、確認してみるわね」
「あ、うん。ありがとな、遠坂」
 居候させてもらっているお礼よ、と凛はにっこり笑った。


「ねえ、聞いてる? アーチャー」
 帰宅した凛は早速アーチャーを呼び出している。
「ああ、聞いている」
「セイバーの様子が、どうにもおかしいらしいのよ」
「衛宮士郎に任せておけばいいだろう」
「そうだけど、その士郎がわからないっていうから、アーチャーに訊いているんじゃない」
「なぜ私だ?」