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Green Hills 第4幕 「天気雨」

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(今の距離を保つのなら、この手を取る必要など、ない……)
 伸ばされる手。
 取ってはいけない、とアーチャーの頭の中では警鐘が鳴り響く。
 だが、自分に向けて真っ直ぐに伸ばされた手が、これほどに尊いと思えるなど、アーチャーは知らなかった。
 その手を払うことも無視することも、アーチャーにはできない。その、自分にはない清浄な、穢れのない手をアーチャーは何よりも欲している。
「セイバー、私は……」
 振り払うことなど、拒むことなど、到底できるはずもなかった。
 腰を屈め、シロウの手を掴み、その掌に唇を寄せる。
 膝をついたアーチャーの頬に、シロウの指先が触れる。
「どうしたら、いい……」
 苦しげに呟きを吐き出して、琥珀色の瞳を揺らして、震える手がアーチャーの頬を包む。その手にアーチャーは己が手を重ねた。
「あ……」
 その瞬間、ぱちん、と目が覚めたように気づく。ああ、そうか、とシロウは安堵の息を漏らす。自分はアーチャーに触れたかったのだ、と気づいた。
 アーチャーの温もりに触れて、シロウはようやく答えを手にした。
「アーチャー、俺――」
「答えなど、もういい。お前がここまで来た理由など、どうでもいい。ただ、私が認めたくなかっただけで、お前の口から理由を聞かなければ、私は踏み出せない、と……、お前に全てを押し付けようとした……」
 答えを口にしようとしたシロウを引き寄せ、その身体を抱きしめて、アーチャーは目を閉じる。
 この腕の中にずっと欲しかったのだ、とアーチャーはやっと認めた。
 ためらうシロウの手がアーチャーの背に回って、そのシャツを握りしめる。
(これは、安堵というものだろうか……)
 シロウの温もりを感じて、アーチャーはそんなことを思っていた。



「天気雨になったんだ」
「え……」
 凛は、もう何を聞いても驚かない、と宣言していたのだが、やはり言葉を失った。
 屋上での昼休み。もう恒例になってきたセイバー心象世界占い。
「えーっと……、それって、狐の嫁入り、とかってやつ?」
「ああ。そうとも言うな」
「セイバーの嫁入りなのかしら……」
「ふ、不吉なこと言うなよ、遠坂!」
「あら、アーチャーに取られちゃって、拗ねてるの?」
「拗ねてない!」
 ムッとした士郎だが、でも、と続ける。
「少しだけ、あったかくなったなって、思う」
 ほっとしたように笑う士郎に、凛も笑った。


Green Hills 第4幕 「天気雨」 了(2016/6/1初出,10/4誤字訂正)