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Green Hills 第4幕 「天気雨」

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「もう帰っているかもって、思ったりしたけど、まだなのか……」
 ぽつり、と呟いた自分の声に、シロウはハッとする。
「俺は、何を……?」
 口を手で覆って、自分のこぼした呟きを取り消したいと思った。
 アーチャーの帰りを待っているような自分の言葉に、信じられない、と何度も瞬く。
 ごつ、と座卓に額を預けて目を閉じる。
 少し眠気があるということは、魔力が減ってきているのだとわかる。
「答えを……見つけないと……」
 理由をアーチャーに説明しなければここにいてはいけない、とシロウはまた考えはじめる。そのうちに意識が落ちていくことに気づきながら、シロウは抗えずにそのまま意識を手放した。



「まったく、凛も人使いの荒い……」
 散乱した家具や調度品を避けて玄関へ到着する。ぱたぱた、とアーチャーは服の埃を払った。
 目的の宝石は全て回収した。今は何時頃だろうか、と時計を探すが、いったいどこに吹き飛んだのやら、見あたらない。
 窓の外の様子で昼を過ぎあたりだろう、と遠坂邸の玄関を出た。門を閉め、凛に渡された鍵で門と結界に施錠する。
 坂道を下りながら、もう昼食は済んだころだろうか、と考える。一人きりの屋敷で、また、ぽつん、とひとり食事をとっているのだろうと思うと、つい歩調が速くなる。
 衛宮邸の塀が見えてきて、気配を探った。
「寝ているのか。そろそろ魔力が減ってきたのだろうな……」
 次に倒れた場合はどうするか、とアーチャーはふと考えた。
「口淫が無理なら、性交渉……か?」
 顎に手を当て、アーチャーは、む、と眉間にシワを寄せる。
「いや……、何を考えているのか、私は」
 魔力切れを起こさないために、主と同衾しているのだろう、とアーチャーは首を振る。
「私が考えることではない」
 自分に言い聞かせるように口にして、アーチャーは玄関戸に手をかけた。鍵が開いている。
「不用心な……」
 施錠しないまま昼寝とは、とため息をつきながら居間へ向かう。
「何かあったらどうするのか、まったく……」
 泥棒や物盗りならいいが、危害を加えられたりしたらどうするのか、とアーチャーは注意してやろうと決める。
 アーチャーはすっかり忘れている感じがするがシロウはサーヴァントである。たとえ泥棒でも一般人にどうこうされるはずがないのだが、アーチャーにはそうは見えないのだろう。サーヴァントだから、と説明しても、庇護欲をかきたてられるものは仕方がない、と堂々と言いそうだ。
 居間の障子を開けて、座卓に突っ伏して寝ているシロウに、やはりか、と小さく息を吐く。
 台所に目を向け、アーチャーは首を捻った。
「食事は……、まだか……」
 朝食時の食器しか片付けられていないことに気づき、アーチャーはまた、仕方がない、とシロウの側に膝をついた。
 座布団を並べ、そっとシロウを横にしてやる。赤い外套を取り出して、シロウを包み、台所へ入った。

 ことことこと、と鍋の音。ぐつぐつぐつ、と煮た立つ音。
 静かだった衛宮邸に音が満ちている。
「あ……れ……?」
 目を開けたシロウは包まれた赤い外套を掴んだ。
 背後に感じる気配に、寝返って、その姿を認める。
(アーチャーが、いる……)
 台所に立つ後ろ姿があることに、シロウは安心した。
 ぼんやりとその光景を見ながら、いつ帰ってきたのだろうと、どうして当番でもないのに食事を作っているのだろうと、そんなことを考えていた。
 そして、これがいいなぁ、と思う。
 こうやって、アーチャーの気配をずっと感じていられるといいな、とシロウは赤い外套を握りしめて思った。
 うつらうつら、としながら暗い色のシャツの背中を見つめる。
(いつまででも……見ていたいな……)
 確かな手つきで食事を作るその姿を夢うつつでシロウは見ていた。
「セイバー、食事をしなければもたないのはわかっているだろう。眠る前に面倒でも何か口に入れるようにしろ」
 台所からやってきたアーチャーは、配膳しながら小言でシロウの眠気を払拭した。
「……はは、なんだか、アーチャーはお母さんみたいだ」
 無邪気に笑うシロウの頭をつい撫でてしまい、アーチャーはそんな自身にため息をつく。
「くだらんことを言っていないで、食べろ」
 箸を置いて、茶を注いでくれたアーチャーに、まだ笑いながらシロウは身体を起こす。
「ありがとう、いただきます」
 手を合わせて、シロウは少し遅い昼食を食べはじめた。
 寒々しいがらんどうだと思った屋敷は、アーチャーの気配があるだけで、やけに温かいと感じるシロウだった。



***

「俺が、アーチャーに会ってまで、伝えたいと思ったのは……」
 どうしてだろう、とシロウは目を伏せる。
 深夜、家人の寝静まった衛宮邸の縁側で、シロウはいまだ考え続けている。答えが見つからないのだ。アーチャーに出せと言われた答えが。
 あれから、もう十日も経っている。
 催促はされないが、やはりアーチャーには顔を合わせづらい。以前のような引け目や怯えからではなく、答えが出ない胸苦しさで、アーチャーに申し訳ない気持ちが湧く。前よりも接する時間は多くなったし、普通に話せることも多くなったが、二人だけになるのは、やはり少しいたたまれない。
 シロウは前にも増して、アーチャーを目で追っている、気配を感じようとしている。
 ずっとその背中を追っていた。強く逞しい、あの、自身を省みず、正義を貫こうとした男の悲しい背中を。
「サーヴァントになってまで会おうとしたのは、俺が、会いたかったから……?」
 ならば、どうして、会いたいと思った?
 それは、伝えたかったから……。
「ダメだ、堂々巡りだ」
 シロウは項垂れて額に手を当てた。
(わからない……)
 肝心なところが明確ではない。これではアーチャーに答えられない。
(答えを出せと言われたのに、その答えがわからないなんて……)
 額に当てた手で髪を掻き上げた。
「どうすればいいんだろう……」
 ますます項垂れて頭を抱え、シロウは唇を噛んだ。


 気配を追うと、縁側にいる。今夜は家主と同衾ではないようだ、とアーチャーはほっとする。
 だが、魔力を温存するために睡眠が必要だというのに、まだ寝ていないのか、とアーチャーは廊下で霊体化を解く。忠告するつもりで近づこうとした足が止まる。
 髪を掻き上げたシロウの横顔が辛そうだった。
 また傷つけてしまっただろうか、とアーチャーの胸は重く軋んだ。
 踵を返そうと思うが、いっこうに身体は動かず、まるで身体がシロウから離れがたいと訴えるようだ。
 何を言えばいいだろうかと考えながら、とにかく早く寝ろと注意をして、とグルグルと頭の中でシミュレートする。
 頭を抱えてしまったシロウに静かに近づく。
「セイバー」
 低い声が降ってきて、助けを求めるがごとく、シロウは顔を上げた。
「ぁ……」
「っ!」
 泣きそうな顔で頭を抱えるシロウ。
 ひどく罪悪感に満ちた表情を浮かべたアーチャー。
 互いに驚きを隠せず、身動きすら忘れた。
 先に動いたのはシロウだ。
「……わからないんだ…………俺……答えが…………」
 掠れた声で、途方に暮れて、無意識にシロウはアーチャーに両手を伸ばしている。