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Green Hills 第5幕 「南風」

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Green Hills 第5幕 「南風」


「砂嵐じゃなくなった。天気雨も終わった」
「よかったじゃない」
 凛が言うと、士郎は難しい顔をしている。
 例によって屋上でのセイバー心象世界占いだ。
「どうしたのよ、今度は雪でも降ってきた?」
「いや……、なんていうか……」
 うーん、と唸ってしまう士郎に凛は焦れる。
「何よ、なんなの?」
「ぽかぽかして……、あったかいな、と思ったら、急に雲が出てきて、遠くで雷とかが鳴って……」
「何それ……、天変地異でもあるまいし……」
「うん、まるで、春先の天気みたいに……」
「春先の……? ああ、春一番が吹く頃って、おかしな天気になるものね」
「そうなんだ。穏やかになったり、大荒れになったりで……」
「情緒不安定なのね、セイバーは……」
 額を軽く押さえて、凛はため息をついた。
 士郎の見るシロウの心象風景で、二人はシロウの心理状態を把握しつつある。
「因果な商売よね、エミヤシロウって……」
 凛は士郎の同調率の高さと、シロウのすぐに心象世界に影響してしまう心情に辟易して言った。
「アーチャーはそんなにダダ漏れじゃないわよ?」
 今は落ち着いていて全然だわ、と凛はジュースのストローを咥えた。
「アーチャーもダダ漏れてた時があったのか?」
「んー、聖杯戦争の終盤かなぁ。あいつも情緒不安定だったのかも」
「まあ、俺を殺そうって、躍起になっていたことだしな」
「で、あんたはどうなの?」
「へ?」
 急に水を向けられて、士郎は首を傾げる。
「セイバーから何か言われない?」
「俺の心象風景?」
 大きく頷く凛に、士郎は宙を見ながら答える。
「なーんにもない、ってさ」
「はい? なんにも?」
「まだ、なーんにも、って」
 お手上げポーズは、シロウがやってみせたのだろう、それをそのまま士郎は凛に見せた。
 自分の心象風景をシロウも見るのかと士郎は訊いたことがあった。時々見ることがある、と答えたシロウは、今は剣の立ち並ぶ荒野だが、これから変わっていくはずだと言っていた。
 そうして“まだ、なーんにもないよ”とシロウは笑ったのだ。
「ふーん、まだまだ未来は決まってないってことなのね」
「そういうことみたいだな」
 頷く士郎に、凛は少し安心して、どうしようかしらね、と話を戻す。
「うーん、今回は、見守ってみようかとも思うんだけっ、んがっ」
 凛が士郎の頭にゲンコツを落とした。
「相談してきたのは、あんたでしょーが!」
 拳を握って凛はつっこむ。
「ちょっ、話っ、最後まで聞けよっ! 見守ろうかと思うけど、って言ってるだろ!」
「あ、あら、ごめんなさい。思うけど、何?」
 しれっと早とちりを流して、凛はジュースを飲む。
「うん。アーチャーには渡さない」
 きっぱり言い切る士郎に、凛は飲んだジュースを噴きそうになった。
「んな、なに、言って、んの、よ、あんた!」
 軽く噎せながら凛は目を白黒させた。
「何って、アーチャーにセイバーは任せられないって」
「い、いいじゃない、セイバーはアーチャーにぞっこんなんだから」
「む……」
 士郎が押し黙る。
「見ていればわかるでしょー、セイバーの気持ちなんて」
「そう、だけど……」
 何か納得いかない、と士郎はムッとしている。まるで大事な人を取られた子供のようだ、と凛は笑った。
「いいじゃない、セイバーの好きにさせてあげれば」
「このままじゃダメだ」
「どうして?」
「だって、アーチャーは何も言わないじゃないか」
「何も?」
「あいつ、セイバーにちゃんと好きって言ってない」
「好きって……、あんたね……、小学生のお付き合いじゃないのよ」
「同じだろ? アーチャーがセイバーを好きだってことは、間違ってないじゃないか。遠坂だってそう思っているんだろ?」
「まあ、思ってはいるわよ。だけど、そう簡単な感じじゃないでしょ……、って言ってもわかんないか……。それにしても、どうしてアーチャーが言ってないってわかるの?」
「態度で示している、ってタイプだろ、あいつ。だけど、セイバーはちゃんと言ってやらないと、わからないんだ」
 どちらの欠点もわかってしまうのは、エミヤシロウだからだろうか、と凛は少し可笑しくなる。
「ずいぶんと知ってるのねー。やっぱり自分だから?」
「わ、わかるだろ! アーチャーは遠坂に黙ってキャスターと手を組んだんだぞ! あんなことするあいつがいちいち言うわけがない!」
「あ、経験者は語る、ってやつね。確かにそうねー」
 凛は空を見上げながら言う。
(確かにアーチャーはセイバーが好きなんでしょうけど……)
 ただそれは、士郎の言うような単純な、よくある恋愛的な感情、ということではないと思っている。
 凛がアーチャーに感じているのは、もっと深い、もっと激しい、何か下手をすると取り返しのつかないような危うさを含んだ感情だ。
 どうしてそこまで、と言いたくなるのを抑えるのに苦労するほど、アーチャーのシロウに対する並々ならぬ感情がその身の内で渦巻いていると、凛にはわかる。
(そんなことを士郎に言っても、わからないわよねぇ……)
 あそこまでひねくれてしまった自分の未来にまでは士郎も気が回らないか、と凛は不機嫌な顔のままの士郎を横目で窺う。
 アーチャーが、好きだのなんだのとベラベラしゃべるような奴ではないと凛もわかっている。
 だが、こういうことに周りが首を突っ込んでも、いい結果が出るとは思えない。凛は、ここはやはり温かく見守ってやった方がいいと言ってやろうか、と思ったが、イタズラ心が湧いてきた。
「じゃあ、士郎、きちんとアーチャーに言ってやりなさいよ。はっきりしろ、てね」
「ああ、言ってやる」
 決意を固めた士郎に、凛は拍手を送った。



 取りこんだ洗濯物をたたみ終え、アーチャーは傍らですやすやと眠るシロウに目を向ける。
「そろそろ起こしてやるか」
 今日はシロウの食事当番の日だ。午後三時を過ぎている。家主は遅いだろうが、凛はあと一時間もすれば帰宅する。
「セイバー」
 そっと髪を撫でると、ぴくり、と睫毛が震えた。
「セイバー、起きろ」
 頬を撫でる掌の感触にシロウは薄く瞼を開く。
「アー、チャー……?」
「他に誰がいる」
「ぅん……」
 ごろ、とアーチャーの方に寝返ってきて、その手にすり寄り、シロウはまた目を閉じる。
「こら」
 怒るのではなく優しく、ただ口から出ただけのアーチャーの叱責に、もうちょっと、とシロウは午睡を貪ろうとしている。
「寝汚い奴だな、まったく……」
 そう言いながらもアーチャーの眼差しは優しい。
 単にシロウが寝汚いのではなく、眠気に襲われるのは魔力が少ないせいだとアーチャーもわかっている。寝汚くなるのも当然で、それをシロウだけのせいだと責めるわけにはいかない。
 だが、そろそろ起きて夕食の準備をはじめた方がいい、とアーチャーは心を鬼にしてシロウを起こす。
 シロウの手際は決して悪くはないのだが、やはり無理のきかない身体のために、どうしても時間がかかってしまうのだ。
「起きなければ、襲うぞ」
「んー……」
 シロウの眉間にシワが寄る。
「そんなことー、できないだろうー……」