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Green Hills 第7幕 「薫風」

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「何をしている、この、色ボケ小僧っ!」
「んがっ!」
 士郎の額を錆色の手が掴んでいる。
「自らのサーヴァントに手を出すとは、どういう了見だ貴様っ!」
「こ、の! てめ、放せっ!」
 ぐぐぐ、と後方に頭を押されていく士郎は、首の筋肉だけで耐えているようだ。
「ガキが夜更かしなどするな、たわけ!」
 結局、床へ投げ飛ばされた士郎は、転がって身体を起こした。
「お前がグズグズしてるからだろ!」
「なんだと!」
「ちゃんと言わないなら、渡さないって言ったはずだぞ!」
「っく……」
 士郎の言葉にアーチャーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。士郎は初めて言い負かしたと、ふふん、と胸を張った。
「セイバー、わかっただろ?」
 アーチャーの背後で、ぽかん、としているシロウに笑って、大丈夫だ、と士郎は親指を立てる。そして、立ち上がって、
「さっさと言っちまえよ、超奥手のサーヴァント」
 アーチャーに捨て台詞を吐いた。
 びき、とアーチャーのこめかみに青筋が立ったのは言うまでもない。
「貴っ様っ……」
「今は俺より、セイバーだろ」
 アーチャーの背後を指さして、一気に頭にのぼった血が冷えた様を察し、おやすみ、と踵を返した士郎は、ひらひら手を振って自室へ向かった。
「あの、ガキ……、油断も隙もない……」
 脱力したように息を吐いたアーチャーに、シロウはいまだ、ぽかん、としたままだ。
「お前も、気を許し過ぎだ。マスターだからといって、なんでもかんでも許すな、たわけ」
「えっと、なんで、アーチャーがここに……?」
 む、と眉を寄せたアーチャーは、片膝をついたままシロウを振り返り、しばらく考えたあと、居心地が悪そうな顔をした。
「衛宮士郎がこちらに向かった気配がしたからな……。様子を窺っていた。案の定、あのガキ……」
「士郎は、教えてくれただけだ」
「教える? 何をだ」
「あんたが、俺しか見えてないって……」
 士郎の言った通りを口にしてみる。自分ではわからないことが士郎にはわかっていた。ならば、そのままを口にすれば、アーチャーのなんらかの反応がある、とシロウは踏んだ。
 ずるいことをしている、と自覚はあったが、そんなことに縋るくらいに、もうシロウはいっぱいいっぱいだった。
 絶句していたアーチャーが目を逸らす。そのまま額に片手を当てて、項垂れてしまった。
「あ、れ? アーチャー?」
 的外れだっただろうか、とシロウは落ち着かなくなってくるが、アーチャーの反応がないことには、どうしようもない。
 違うのなら違う、と言ってくれなければわからない。もうシロウには何をどうすればいいのかさえわからなくなっていた。
 正しいと思うことも、間違いだと思うことも、わかっているはずなのに、自分が制御不能に陥ったように正しく動けない。
「…………そうだ」
 長い沈黙の後、肯定の言葉を聞いた。
「え?」
「……そうだ、と言った。だから、お前は、余所見をするな。お前は私だけを見ていろ。いいな」
 顔を上げないまま言ったアーチャーに、掴まれた腕を引き寄せられ、抱きしめられて、肩に顔を埋めてきたアーチャーが、とても子供っぽく思えて、シロウは笑いがこみ上げる。
「なんだ……、簡単なことだったんだなー……」
 アーチャーの背中を撫でて、シロウはこの温もりがずっと心地いいと思っていたことを、やっと素直に感じることができるようになった。


「やっとまとまったわね」
「ほんっと、ひねくれてるよ」
「まあまあ。アーチャーなんだから、仕方ないでしょ」
「そうだなぁ」
 廊下の従者たちをこっそり覗き見していた士郎と凛は、とりあえず安堵の息を吐く。
「見守りは、成功、ってことで」
「ああ」
 互いに親指を、グッ! と立てて、頷き合う。
「これで、快晴になるな」
「なあに? セイバーの緑の丘?」
「ああ。もう雨なんか降る要素がない」
「そうね」
 並んで廊下を歩きながら、士郎と凛は晴れ晴れとした顔で笑い合っていた。



「えっと……、キスをしても、おかしくない、のかな……?」
「……なんの話だ」
 シロウの肩に顔を埋めたままアーチャーは低く問う。
「アーチャーはいつも、キスをするから……」
「キスではなく、補給だろう」
「あ、そうか。そうだった。……あ、じゃあ、こうやって抱きついても、いい?」
 すでにしっかりと抱きついている状態で、シロウはそんなことを訊く。
「貴様……、先ほどから、何が言いたい……」
「何って、確認をしているんだ。でなきゃ、俺は、やってはいけないことを、当然のようにやってしまっているかもしれないから」
 キスも抱き合うことも、好きな相手になら気持ちが高ぶれば誰だってやってしまうだろう。それを、シロウは確認を取らなければやってはいけないと思っているようだ。
「お前は、ずっと、そんなふうに思っていたのか……」
 その不器用さがひどくアーチャーを苛む。堪えきれずに抱き寄せたことも口づけたこともあるアーチャーの行動は、それこそシロウをひどく動揺させ、不安にさせたことだろう。
「たわけ……」
「え? だって、俺は、アーチャーにとって迷惑でしかない存在だし」
 ぎゅう、とシロウを抱きしめて、アーチャーはその髪を撫でる。
「私には何をしてもいい。抱きつくことも、キスをすることも許可などいらない。お前は思うままを、感じるままを、私に向ければいい」
「う……ん、わかった」
 頷いてシロウはうれしさを噛みしめるように瞼を閉じた。
「……私も遠慮はしない」
 アーチャーはシロウの肩から顔を上げる。
「まず、お前は主との同衾をやめろ」
「え……」
 シロウも身体を起こし、間近で目が合う。
「でも、それじゃ魔力が足りなく――」
「私が提供してやる」
 ふ、と嗤ったアーチャーの邪悪な笑顔が、しばらくシロウのトラウマとなったのは言うまでもない。


Green Hills 第7幕 「薫風」 了(2016/6/2初出,10/4加筆修正)