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Green Hills 第8幕 「夏灯」

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 苦しいなど思ってはいなかった。痛いなどと、なおさら気づかない。
 今、シロウに言われるまで何とも思っていなかったことに気づかされる。
 痛かったのか、苦しかったのか、と他人事のようだった内面の軋みが感じられる。
 それがどんなに辛いことでもかまわない。シロウが受け止めてくれるから。
 シロウが膿だらけのこの魂を清水で洗い流すようにキレイにしてくれる。膿を出しきって洗い流されたとしたら、自分はもう少しまともでいられるだろうか。
 そんなことを思いながら、アーチャーはシロウには自身の昏いモノに気づいてほしくはない。
(お前を穢してはいないか……?)
 一抹の不安。
 自身の汚泥で、シロウを穢してはいないかと、それだけがアーチャーの気がかりだ。
 だが、それでも、もう離す気はないのだ、とアーチャーは言い訳をする。もう離せないのだと、誰に了解を得るわけでもないのに、それを許してほしいと願う。
「セイバー、そろそろ戻ろう」
 抱きしめた腕を緩めると、シロウは拒むようにしがみつく。
「セイバー?」
「……もう、少し」
「主が心配するぞ」
「うん……」
 それでも離れようとしないので、アーチャーもまた腕に力をこめて、抱きしめた。



 士郎が夜中に目を覚ますと、眠るときにはいなかったサーヴァントたちが部屋にいた。布団に入ることもなく、窓辺に座り、桟に肘をついた黒い方は、頬杖をついて窓の外を見ている。白い方はというと、黒い方に抱き込まれ、夢の中のようだ。
(遠坂、やっぱり俺は、一緒にいてほしいって、思うよ……)
 この対のようなサーヴァントは一緒にいるべきだ、と士郎は確信を持って言える。
(セイバーにもアーチャーにも、お互いが必要なんだ、きっと)
 個室状態でのびのびと眠っているであろう師匠に、士郎は伝えなければと思う。
 この光景を、その二人の姿を――安心しきって眠るシロウと、それを優しい微笑を浮かべて受け止めるアーチャーの姿を。
(遠坂も思うはずだ、こんな二人を見たら、二度と引き離せないって……)
 士郎は瞼を閉じた。
 今は二人だけにしてやろう、と。
 この時間を、この空間を、自分は眠って邪魔しないように、と。
 夏灯すら消えた夜更けに、今、存在するのは二人だけだと思える、この刹那を送ろう。


Green Hills 第8幕 「夏灯」 了(2016/6/8初出,10/4誤字訂正)