Green Hills 終幕
暖かい風が白い花びらを舞わせる。
剣の立ち並ぶ緑の丘は、穏やかに晴れてばかりいることだろう。
*** Epilogue ***
緑の丘に風が吹く。
青藍の衣をなびかせて、笑う騎士は手を差し伸べる。
清らかで、穢れを知らない、たなごころ。
その手を取るのは傷つき、泥にまみれた、錆びた色の武骨な手。
赤い騎士は外套を翻し、片膝をつく。
騎士の礼に倣い、清らかなその手に口づける。
見上げた先の琥珀色の瞳は、この世界と同じに澄みきっている。
その眩しさに目を細め、口元を緩めれば、にこり、と笑みが降る。
赤い騎士は清浄な騎士の全てを欲した。
青藍の騎士は錆色の手に憧れていた。
赤い騎士は立ち上がる、その全てを手に入れるため。
その腕に抱きしめる、青藍の騎士を愛するため――。
「戻ることのできない道へ旅立った騎士たちは、どこへ行くのだろうか……」
ぱたん、と本を閉じ、紅茶を飲み干してカップを置く。
窓を開けると、初夏の風が吹き込んでくる。
「さあ、どこへ行くのかしらね……」
黒髪を風に揺らして、遠いところへ行ってしまった騎士を思い浮かべる。まるでこの風のように爽やかに笑った青年は、もうここにはいない。
コンコン、と軽いノックの音がする。振り返ると、
「凛、そろそろ時間ではありませんか?」
眩いばかりの金の髪を揺らしてドアを開けた少女に凛は頷く。
「ええ、すぐに行くわ、セイバー」
肩にかかる黒髪を軽く払って答え、待ってくれている少女とともに部屋を後にした。
机に置き忘れられた本に白い花びらが舞い落ちる。
革の装丁の表紙には金の文字で“Green Hills”と記されている。
白い花びらはこげ茶色の表紙に吸い込まれるように溶けていく。
形を失った花びらがあった表紙には、白い花びら形の染みが残っていた。
―――Green Hills END
Green Hills 終幕 了(2016/6/17初出,10/5誤字訂正)
作品名:Green Hills 終幕 作家名:さやけ