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同調率99%の少女(8) - 鎮守府Aの物語

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 視聴覚室から出て思い返しながらあてもなく歩く流留。気づくと別の棟にいた。少し戻って空中通路のところで立ち止まり、手すりによりかかって思いにふける。
 いきなりやってきて自分の日常を壊そうとする、男子生徒からの突然の告白と、艦娘という非日常の世界とも思える存在。そして艦娘になってしまった自分。いや、まだなっていないのか? あくまで資格がある、ということなのだろうか。流留は自身の素質にも混乱していた。
 今日一日で日常が破壊されかねない重しがのしかかってきたことに流留は憂鬱になっていく。
 とりあえず告白は断り、艦娘への誘いも(生徒会長たちの反応を見ずに)断って帰ってきた。今の彼女には、逃げることしかできなかった。


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 彼女が日常生活にこだわるのには、彼女の人となりに影響を与えた従兄弟たちの事情が関係していた。流留には兄弟姉妹はおらず、一人っ子であったために従兄弟たちがその代わりをして彼女に小さい頃から接していた。流留は従兄弟たちを”にいやん”などと呼びまるで実の兄弟のように接して育つ。かなり歳の差のあったそんな従兄弟たちに接するうちに、流留はおよそ女の子らしい趣味は身につかず代わりに男っぽい趣味が身につき、従兄弟たちと遊ぶ間に負けずとも劣らぬ勇ましい性格になっていった。

 そんな気の置けない従兄弟たちとの楽しい日々が続いた。流留は周りが年上だからということもあり、すべてを安心して委ねて、接することができた。常に流留のことを気にかけてくれて、何をしても自分の味方でいてくれる、心から信頼できる存在。だから思う存分やんちゃもした。
 ある種、流留は他人に究極的に依存しやすい質だった。彼女にとって日常生活とは、従兄弟たちとの時間がすべてであった。そんな従兄弟たちとの時間も、小学校高学年の途中までだった。

 保健体育で教わった男女の体の違い、そして成長していく自分の体つき。周りからの扱いの変化。かなり年齢差があって年上だった従兄弟たちも成長し、それぞれの道へ進んだこともあり今までどおり接してくれなくなった。従兄弟たちと遊ぶ時間が減り、もともと一人っ子の流留は一人で遊ぶ時間が増えた。
 従兄弟たちとの接し方の結果、小学校の頃から男子生徒と遊ぶようになり(小学生の頃ならば男女問わず遊ぶことは世間的にもそれなりにあろうが)、流留は従兄弟たちの代わりとなる存在の拠り所を同世代の男子に求めた。

 完全な代わりとはならないが、同じ男友達ならば同じような日常を取り戻せるだろうと思いあくまでも男友達と接し続けた。とはいえ、趣味や気が合うなら同性の友達でもよかった。しかし小学校低学年〜高学年、そして小学生時代のクラスメートの大半がそのまま揃って入った中学校時代初期まで、固定された交友関係のせいで同性の友達らしい友達ができないいままでいた結果、彼女は実質一人ぼっちとなった。一人ぼっち自体は、彼女にとって大した問題ではない。

 流留は中学に上がった時からぐんと成長し、男子のみならず同性でも目を見張る中性的な美少女に変貌した。勉強は得意ではなくむしろ苦手。しかし可愛くて気さく、それを笠に着ず等しく(男)友達に接する。助けを求められればすぐに駆けつける少し世話焼きな性分。そんな彼女が人気者になるのはたやすく、そして人気者に取り巻く環境の常である、アンチな生徒も大勢生まれた。
 中学時代、彼女にとってはそれなりに酸いも甘いもあった充実した時期だった。心身が成長する過程、男友達は思春期まっただ中で流留と接するのを恥ずかしがる者もいたが、基本的には仲良く接してくれた。
 人気を妬んだ女子にいじめられることも少なからずあったが、小さい頃から従兄弟たちの影響を受けてたおかげでやや男勝りに育った流留には、なぜか同性のファンがつき、味方も多かった。

 しかしなんとなく足りない感覚が中学校最後の時期まで続いた。

 そして高校入学。実家を離れて親戚の家に厄介になり、別の市立の高校に入った。それが今流留がいる高校である。今までの交友関係はリセットされるが、新しい交友関係を作ればその足りないものが補完されるかもしれない。そう信じて高校入学してからすぐに自分の普段の趣味全開で積極的に男子生徒に話しかけ、趣味の合う人を見つけ、雑談したり遊びに行く関係を築き上げていった。
 形は違い、足りないものは補完できなかったがそれでも自分が作ってきた一応の日常。

 高校生ともなると誰もが今までとは違う意識が芽生えていた。将来の進路、恋愛感情はより複雑な物になり、本気で一緒にいたいと思う感情。今までの夢絵空事とは違い、具体的な形を伴った将来の夢を追いかける思いや意欲。
 流留は将来のことを真剣に考えたことなく、誰かを好きになるという感情も芽生えなかった。あえて言えば、もはや年末年始でさえ滅多に会わなくなっていた従兄弟のことが好きという程度。友達の男子生徒たちは女である自分と仲良くはしてくれているが、なんとなく違和感があったのでそんな感情を抱くには至らなかった。
 その違和感は、この日流留が当事者になった男子生徒からの告白と、艦娘への誘いでハッキリ彼女も理解した。

 みんな成長している。何かに一生懸命になろうとしている。だから精神の真なる部分では幼い流留にはどうしても彼(女)らとは馴染めない一線があったのだ。単なる男友達と思っていた吉崎敬大は単純な友達関係から一歩進もうと迫り、生徒会長たちや三戸は、世界を救うというとんでもない非日常の世界に首を突っ込んで大人たちと一緒に活動している。
 形の上だけでは理解はできるが、流留自身はそれを本気で理解して、受け入れるだけの心の成長ができていなかった。彼女の日常を刻む歯車は、従兄弟たちと接していた小学校高学年の頃の思い出と感情で凝り固まっていて止まったままだったのだ。
 流留は、今の日常でならいくらでも張り切って馬鹿やって熱血やって過ごせる自信はあったが、もう高校生。自分の生き方を真剣に考え、変えなければいけない時期が見え隠れし始めているのにようやく気づいた。
 が、今まで信じていた日常がどうにかなってしまう。そんな恐れが彼女を縛り続ける。

 自分はどうすればいいのか。心かき乱された今の状態で、果たして明日から今までどおりの日常生活を送ることができるのだろうか。そんな不安が流留の頭をよぎり続ける。

 普通の朝が、遠くへ消えていく。


 そんな予感がした。