Quantum
「よお、シャカ。うわ、目を開けてやがるっ!?……なんだ、おまえ、また上に行くのか?」
「私が開眼していようがいまいが関係なかろう、君には。まぁいい。さっきは話の途中でアイオリアに引き摺り降ろされたのでな、二、三確認したいこともあるから、戻るつもりだ。それよりデスマスク、君たちはもう話は済んだのかね」
胡散臭そうにシャカを眺めるデスマスクを若干睨み付けながら、もう一人の方へとシャカは視線を移した。
「ああ、私たちはな―――シャカ、アイオリアの気は鎮まったのか」
デスマスクともう一人の影、サガは神妙な顔つきでシャカに尋ねてきた。
上弦の月の夜に言葉を交わした人物とは同じは思えぬほど、シャカに対して穏やかに接してくるサガ。そしてあの夜、激しい敵意をシャカに向けたサガ。どちらが本当のサガなのだろうか……いや、どちらも彼なのだなと、つまらないことを考えてしまったことを内心でシャカは苦笑しながらも、サガはアイオリアの気持ちをわかっているのだろうかとぼんやり思う。
シャカと違ってサガは人の心の機微に敏感そうに思えた。しかし、案外そうではないかもしれないし、どちらなのだろうかと考える。
「さて。まだ多少は燻ぶっているようだが。アイオリアは獅子宮の奥へ引っ込んだようだし、君たちと顔を会わさなければ問題なかろう」
あえて「君たち」と口にした。デスマスクは一瞬だけ眉間に皺を寄せ、サガは―――。
「……そうか。ならば静かに通るとしよう」
僅かにほっとしたような表情をしてみせた。どうやら前者のようだと内心で推し量る。
「あいつにそこまで気を遣わなくてもいいだろうが、サガ。んじゃ、シャカまたな!」
ひょこひょこと階段を先に降りていくデスマスクにサガもそのあとを追うように階段一歩降りてから、「ああ、そうだ」と振り返った。
「―――シャカ、おまえ最近、聖域に来ていなかったか?」
突拍子もない質問。何の用意もなかったシャカは面食らった。
「え?ああ……一度教皇に呼ばれて訪れたことがあったが、それが何かね?」
「いや……特にどうといったことではないが」
それで納得したのか、スッと再び前を向き直って今度こそサガは階段を降りていく。内心、シャカは肝を冷やしていた。何か勘繰っているのだろうかと。いや、単なる確認に過ぎなかったかもしれない。聖域に訪れた時、そういえば自宮に飛んだつもりが教皇宮に飛んでしまったことを思い出し、その時にサガの小宇宙の欠片に触れたのかもしれないと。
今回のことが落ち着いた時にでもいい。まだ次元の具合が戻っていないなら、一度、起点を探してみようかとシャカは気まぐれに思うのだった。