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Quantum

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「待て、私だ。サガだ」

 寺院の部屋の奥闇から、すうっと幽鬼のように現れたサガに不完全燃焼な小宇宙を無理やり引っ込める。安堵するよりもシャカはサガの出現に訝しんだが、うまく表情には出さずに済んだ。

「……なんだ、サガ。君か……驚いたではないか」
「悪かった。驚かせるつもりはなかったのだが。おまえを訪ねて別の邸にも数か所あたったのだが、見当たらなくて。一縷の望みをかけて、ここを訪ねたが姿を見かけず、諦めて立ち去ろうとしたところだったのだが、よかったよ。すれ違いにならずに済んだようだ」

 ホッとしたようにサガは柔和な笑みを浮かべた。いっそすれ違ってくれたほうがシャカとしては助かったのだが…と思いつつ、おくびにも出さずに途中で止めていた手を再び動かしながら身なりを整えた。

「で?このような辺鄙なところまで君が訪ねてくるとは一体どうしたのかね?聖域で何か……あった…の…か……ね」

 ―――おかしい。
 
 やけに身体が重く感じられた。熱のせいだけではないとようやく気付く。手足の先の感覚が鈍い。いや、はっきりと痺れていることを知覚した。

「ああ、そのことだが……シャカ?おい、どうした!?」

 異変に気付いた時、すでに遅かった。全身に力が入らず、その場に崩れ落ちる。危うく頭を地面に叩きつけるところをかろうじてサガが支えてくれたことで、回避できた。
 どうやらアイオロスは用意周到だったらしい。ご丁寧にも鏃に麻痺する薬でも塗り付けていたようだ。確かに生け捕りには最たる方法だと内心で舌打ちするが、うまく機能しなくなった身体をさてどうすべきかと考えたが。幸いまだ意識は保てている。気怠くはあったけれども、声はなんとか出せる。通常よりも小さく力ないものだったから、一度では聞き取れなかったらしいサガが口もとまでわざわざ耳を寄せてくれた。
 さて、如何したものか。ここはひとつ、芝居でも打っておこうか。鈍くなる思考でかろうじて策を弄する。と、いっても大した策ではなかったが。

「―――実は……ここに来る前に……出遭い頭に…奴と遭遇したのだよ……向こうは傷を負うていたようだが――まんまと逃してしまった……逃げる際に放たれた一撃が……今になって効いてきたよう…だ……情けないな……いずれ元に戻る…だろう。だから……そこら…に寝かせて……くれないか」

 すべてが億劫に感じられる。熱に浮かされ、眦が熱く濡れる様な感覚。すぐにでも微睡に身を委ねたいところだった。喘ぎ喘ぎ、一通りサガに伝えるとサガは聖域に戻ろうと当然、勧めてきた。だが、そういうわけにもいかず「みっともない姿を晒したくはない」と告げた。
 サガは渋っていたが、シャカの意向を組んでくれたらしい。「わかった」と短くサガは答えたところまでは覚えている。そんなサガに自分のことは放っておいて「君は聖域に戻れ」と私はちゃんと伝えたところまでは覚えていた。
 そう……ちゃんと伝えたはずなのだ。


作品名:Quantum 作家名:千珠