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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 デール王との謁見を済ませてから、一行はヘンリー一家が寛ぐ部屋へと到着した。
 リュカが慣れた様子でつかつかと室内へと進み、主を見つけて声をかけた。
「やあヘンリー、来たよー。マリアさんも久し振りだね」
 リュカの声に顔を上げた人物──読書中だったようだ──を見て、アンジェリークが小さく声を上げた。
「あ……あの人」
 水鏡で見た明るい緑色の髪の子供はすっかり大人になって、落ち着いた風貌をしていた。
 その横でマリアと呼ばれた金髪の女性が穏やかに微笑んで頭を下げた。
「おー? リュカじゃないか! 久し振りだなあ、ビアンカさんも子供たちも元気そうだな。……うん? そちらの方たちは?」
「紹介するよ、こちらはアンジェリーク殿とルヴァ殿。今事情があってうちに滞在して貰ってるんだ」
 ヘンリーの視線が二人に注がれ、アンジェリークとルヴァはそれぞれお辞儀をしてお互い自己紹介を済ませた。
 ヘンリーがマリアの後ろに隠れている小さな子供──ヘンリーと同じ髪の色だ──へと声をかける。
「コリンズ、おまえもお客様にちゃんと挨拶しなさい」
 コリンズはぎゅうとマリアのドレスを握ったまま、無言でじっとこちらを睥睨している。
 アンジェリークは膝を折り、コリンズの目の高さに合わせてにっこり微笑んだ。
「初めましてね。わたしはアンジェリークって言うの。仲良くしてね、コリンズくん。はい、握手」
 ルヴァもまた、彼女と同じように膝を折って話しかける。
「私はルヴァと呼んで下さいねー。あー、その、もし良かったらあとで沢山お話しましょうねー」
 ぱ、と差し出された二人の手にコリンズの表情が緩む。はにかんだ顔で小さな手がそっと重ねられた。
「……なんだよう。おまえたちみたいな年寄りなんか、おれの子分にはしてやらないからな」
 確かに外界の時間軸では相当に年寄りだ、ご尤もだと二人は顔を見合わせて笑いを堪えた。
 ヘンリーが息子をどついて困った顔をする。
「こら、コリンズ! や、ほんとすみません……誰に似たんだかどうにも生意気で」
 この言葉に、リュカとアンジェリークが同時に吹き出した。
 笑いながらリュカがすかさず突っ込む。
「誰にって、ヘンリーそっくりじゃないか! 瓜二つだよ!」
「そうかあ? オレが子供の頃はもうちょっとおとなしかったと思うけどなー」
 水鏡で見た限りではリュカの記憶は正しい、とアンジェリークは密かに思う。
 それまでの笑いを静かに収めて、リュカの表情がぐっと引き締まる。
「それでね、ヘンリー。ぼくたちは近々魔界へ行ってくるよ。たぶんそれで最後の戦いになると思う。その前に君たちに会っておきたくて来たんだ」
 それまで笑顔でぐりぐりとコリンズの頭を撫でていたヘンリーの顔が意を決したような面持ちに変わり、それから眩しそうにリュカ一家を見つめた。
「……今日はゆっくり一泊していけよ。積もる話もあるしさ、皆で宴会やろうぜ! いいだろ?」
 ルヴァとアンジェリークには、ヘンリーとマリアの表情でリュカの言葉の意味が──もしかしたらこれが最期になるかも知れぬことが──正しく伝わっている様子が伺い知れた。
 それでも努めて明るく振舞うヘンリーの姿に、二人の積年の友情が垣間見える。
 彼は信じているのだ、リュカとその家族の力を。強い絆を。
 リュカが妻と子ら、そして次にアンジェリークとルヴァへと視線を流した。
「ああ、悪いけどグランバニア勢全員参加でお邪魔させて貰うよ。いいですよね、お二方?」
 重い宿命を背負った彼らの姿に言葉に詰まり、二人とも頷くだけで精一杯だった。
 ヘンリーが口の端を上げてニッと笑う。
「よし、おまえの好物いっぱい用意してやるからな、楽しみにしとけよ! 久し振りに一緒に飲もうな」
「ありがとうヘンリー。……その前に今から遺跡に行ってくるから、子供たちを頼むよ」
 遺跡。その言葉に一瞬泣きそうな顔をしたヘンリーに、アンジェリークは切なくなった。
(この人の中でも、何一つ終わってはいないのね。今もあの記憶に縛られてるんだわ……)
「……おう、行って来い。日が暮れるまでには戻れよ」
 リュカの背中をばんと叩いて、肩に腕を回したヘンリー。
 その声が僅かに翳ったことはその場にいた者なら気付いた筈だ。
「ティミー、ポピー。ぼくはちょっと出かけてくるから、ここで遊んでいなさい。ビアンカはどうする? 来る?」
 じっとビアンカの目を見つめて問うリュカ。
 表向きはビアンカの意思を訊いてはいる。だがその目は明らかに来るなと告げていた。
「ううん、わたしは子供たちの傍にいるわ。気をつけて行ってきてね、リュカ……待ってるわ」
 少しだけ寂しそうな顔をしたビアンカが、口元に微かな笑みを浮かべた。
 本当はついて行きたいに違いないのに、とアンジェリークはその表情をちらりと流し見た。
 リュカがビアンカの耳に口を寄せて何かを囁いて、ビアンカの瞳が一気に潤んだ。
 もう一度小さな声で待ってると言うビアンカを一度強く抱き締め、さっと身を翻すリュカ。
「じゃ、すぐ戻るから。お二方、城下町を案内しますから途中までご一緒しませんか」
 言葉の割にはこちらを一瞥もせずにつかつかと扉へ向かう彼に、ルヴァは何かを察して調子を合わせた。
「ええ、是非お願いしますー。アンジェ、行きましょう。ではまた後ほど」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち