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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 連れられるままにあまり騒々しさのない城内を歩いていくと、角に面したところで先を歩いていたルヴァの足が止まった。
 壁面の”ルイーダの酒場”という看板を指差してから、ルヴァの視線がアンジェリークへと注がれる。
「そこの奥に、ルイーダさんという方がやっている酒場があるそうですよー。ちょっと寄ってみましょう」
 まだ明るい内からお酒なんてと渋るアンジェリークを無理やり連れ込むが、もちろんお酒が目当てではない。こういう多くの人が出入りする場所は情報を集めるにはうってつけなのだ。
 アンジェリークを促して酒場へ足を踏み入れると、カウンターの中でグラスを磨いていた女性が声をかけてきた。
「あら、いらっしゃい。あなたたちはリュカ王のお客様ね。何か飲む? 軽食もおいてるわよ。あ、ここでは御代はいらないから安心してね」
 そう言ってルイーダが鮮やかな口紅の乗った唇を綺麗に持ち上げ、艶のある微笑みを浮かべた。年齢不詳だが美しい女性だ。
 ルイーダの目の前の席に二人並んで座り、あらかじめ決めていたようにさっさと注文を決めるルヴァ。
「そうですね、私はエールで。彼女にはアルコール抜きで何かさっぱりした口当たりのものをお願いします。ああ、あとナッツも一皿お願いします」
 普段のルヴァならお茶で充分だが、飲めない、若しくは飲まない人間がこの時間からわざわざ酒場にいるのは不自然に思われかねない。幸いにも彼はエールの一杯程度で潰れるほど弱くもないため、敢えてお酒を頼んだ。
 ルイーダはエールとナッツをさっと出した後、手早く幾つかの果物を絞り混ぜ合わせた果汁をガス入りの水で割って出してきた。グラスの淵にはピンクの花が飾られている。
「はいどうぞ、お嬢さん。……それにしても、リュカ王もそうだけど、今時の若い男の子の流行りなの? その頭の布」
 「若い男の子」に自分も入るとわかって口元が緩んだところをアンジェリークにしっかり見られた。くすりと笑ってルイーダから飲み物を受け取っている。
「ありがとう、いただきます。ここではおじさん扱いされませんでしたね、ルヴァ」
「確かに十歳くらいの子供から見れば私もおじさんですけど……そんなに老けてみえますかねー?」
 二人でナッツの盛り合わせを無造作に口へ放り込みながら、ルヴァは周囲の様子を横目でざっと確認していた。
「ううん、全然。わたしはかっこいいと思ってますけど。……ん、なにこれ。ヘーゼルナッツだと思ってたらなんか違う」
 それまでナッツの種類を面白がってちまちま数えていたアンジェリークが、見たことのない木の実を集中的に食べ始めた。黙々と木の実を齧る姿はどこか小動物のようで愛らしい。
 そしてアンジェリークからさらりと告げられた言葉にルヴァの頬が熱くなっていく。
「ありがとう、そう思ってくれるのはあなたくらいのものですよ。あばたもえくぼとは正にこのことでしょうねー。あ、それ私も気になってるんでちょっと残しておいて下さいねー」
 グラスを磨きながら二人の会話に微笑むルイーダ。
「あなたたち仲が良くていいわねー。でもお兄さん、あたしになんか聞きたいことあったんじゃないの?」
 ルヴァのジョッキを置く手が一瞬止まり、わが意を得たりといった表情で不敵な笑みを浮かべた。
「……さすが、お話が早くて助かりますねー。こんな誤魔化しは無用でしたか」
 ルイーダは肩をすくめてやれやれといった表情を見せた。
「伊達に色んな人間を見てきてないわよ、ここに来る前はもっと荒くれが集う場所にいたからね。……あなたのさっきの目の動き、リュカ王みたいに旅慣れた人ならわかるんだけど、普通の人はやらないもの」
「あはは、参りました。それも気付いていらしたとは。では単刀直入に伺いますが、魔法使いマーリンという方をご存知でしょうか」
 アンジェリークは先程ポピーが口にしていた名だと気付き、はっとルヴァの顔を見た。彼女を天使と言った魔法使いとは、一体何者なのか。
 アンジェリークがかつて育てた大陸の民から天使と呼ばれていたことは、ルヴァは誰にも話していない。言ったことは「違う世界から来た」ということだけだ。
 これがただの偶然なら良いが、もしこの世界へと自分たちを引き込んだ者がその魔法使いであったとしたら。アンジェリークの強大な力をどこかで知った上での悪しき企てだとしたら────ルヴァはその可能性を考えていた。
「……今朝ね、この城の南東の方角に空から光の塊が落ちてきたんですって。それを見たのがマーリンよ」
 ルイーダの言葉にアンジェリークと顔を見合わせた。
「ルヴァ、それってきっと私たちが来たときのもの、よね?」
 不安そうな声のアンジェリークに、ルヴァは真剣な表情でひとつ頷きを返す。
「ええ……恐らくは」
 ルイーダの言葉は更に続いた。
「リュカ王が言うには、マーリンが光の中に白い翼を見たというから、皆で探索しに行ったんだそうよ。ここでは過去に二回も王妃が魔物に攫われる事件が続いて、そういうのに敏感になっているの」
 アンジェリークの顔にも怪訝な表情が浮かんだ。
(国王様は偶然通りかかった、って言ってたわよね。あれは偶然なんかじゃなかったってこと?)
「……」
 不安げに揺れる翠のまなざしを受けて、ルヴァは思案を巡らせる。
 普段とは違う事態が起きたときに、敵襲かも知れないと危惧するのは尤もな話だ。聖地で同じことが起きても、兵士が確認に行くことだろう。
 だが何かが引っかかる。やはりその魔法使いとやらに一度会ってみなくては────ルヴァはそう考えて切り出した。
「そのマーリンという方に、お会いしたいんですが……」
 再びグラスを磨き始めたルイーダにそう告げると、彼女はうーんと考え込んで綺麗な眉をしかめた。
「会いたいならあっちにいるお爺さんに言えば取り次いでくれるけど……無理だと思うわよ。彼の言葉がわかるのは、リュカ王とポピー王女だけだから」

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち