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しょうきち
しょうきち
novelistID. 58099
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冒険の書をあなたに

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 これといった手掛かりもないまま、二人は再び部屋に戻ってきた。
「なんか、振り出しに戻っちゃった気がしますね」
 長椅子で寛ぎ始めたアンジェリークの横で、ルヴァはそれには答えず目を閉じて顎に手をあてたまま考え込んでいる。
「ルヴァ?」
 ルヴァはティミーやプックルが発していた魔法と、アンジェリークの叫びに応じたかのような光の波動を思い出していた。
(魔法使いは光の中に白い翼を見た、と。それが仮に竜を消し去ったときに現れていた翼と同じであるならば……サクリアは未だ体内に在って、この世界では何らかの理由により感じられない……ということでしょうか。それならアクセス方法をこちらの世界のルールに則れば、もしかするとサクリアを母体に魔法を発動させられるかも知れない)
「うん、希望が見えてきましたよ、アンジェ……っうわあ!?」
 頭の中でまとまった考えを話そうと伏せていた目を開けたとき、息がかかるくらい間近にアンジェリークの顔があった。
「もー。なんで目を開けちゃうんですか。あとちょっとだったのにぃ」
「おや、もしかして襲われるところでしたか? それは惜しいことをしましたねー」
 ルヴァは微笑を滲ませて、すかさず頬を膨らませているアンジェリークに覆いかぶさり、耳元へ口を寄せた。
「今は……そんな可愛いことをされたら歯止めが効きませんよ」
 そのまま首筋へ唇を滑らせていく。
 ルヴァの手がやがて柔らかな胸の感触を確かめ────誰かが扉を叩く音が聞こえた。

「あー残念、邪魔が入っちゃいましたね。……続きはまたあとで」
 アンジェリークの桜色の唇に軽く口付けてルヴァは扉へと向かった。
「はいはいー、いますよ。どなたでしょうか」
 扉へ手をかけて訊ねると、間髪を容れずに元気な少年の声が響いた。
「ぼくだよーおじさん! ポピーもいるよ!」
 手のひらに少しの力を加えて重厚な樫の扉を押し開け、二人を招き入れた。
 ふと見ればポピーの頭に何か丸い生き物が乗っているが、それを気にするでもなくポピーがにこにこと話し出す。
「あとね、ドラきちもついてきちゃったの。噛んだりしないから大丈夫です」
 キーキーと小さな鳴き声をあげているその丸い生き物は、ポピーの頭とほぼ同じ大きさであるにも関わらず全くもって体に見合わない小さな羽根がついていて、これまたミトン手袋のような指のない短い足──果たしてこれで木の枝に止まったりできるのだろうか──とそれなりに長い尾を持ち、そして妙に平面的な顔をしていた。
「おや、この子は……コウモリ……ですか? にしては随分と太っているような」
「この子はドラキーっていう魔物さんでね、名前はドラきちって言います。可愛いでしょ」
 ドラきちはポピーに両手で抱きかかえられても、特に嫌がる様子もなく笑み(?)を浮かべていた。
「そうですねえ、なかなか面白い見た目をしていますねー。それで、二人揃ってどうしましたかー」
 可愛いかと問われれば、一応可愛い部類に入るのだろう。ルヴァには珍妙な生き物にしか見えなかったが、触れてみればビロードのような手触りで思ったよりも心地良かった。
 にこにことティミーが話し出した。
「お父さんがね、皆で一緒に夕食を食べましょう、だってさー」
 現在この世界の事情が全く分からない二人には、その誘いは願ってもない申し出だ。ルヴァは笑顔で頷いてみせた。
「お気遣いありがとうございます。是非ご一緒させていただきますよー」
 突然ポピーの腕の中にいたドラきちが、一鳴きしたあとにぱたぱたと羽根を震わせて藻掻いた。
「あっ……ドラきち?」
 腕からすり抜けて飛び立ち、長椅子に座っていたアンジェリークの膝の上にぽすりと落っこちた。
「あらまあ、可愛いわねー。いらっしゃい」
 魚のような目でじいっと見つめるドラきち。アンジェリークがそっと頭を撫でると気持ちよさげに目を閉じている。
「……慈愛ノ手ダネ。あったかイ手大好キー」
 幼児のようなたどたどしい声が聞こえて、アンジェリークは驚きで目を見張った。
「ねえ聞いた!? この子お喋りができるのね、なんて賢いのかしら!」
 ルヴァの顔が狐にでもつままれたかのような、呆気にとられた表情に変わった。
「えーと……アンジェ? お喋りって、その子、今喋ってたんですか……?」
 双子たちは顔を見合わせてからアンジェリークに視線を集めた。
「え? ……うん、なんかたどたどしかったけど、慈愛の手が好きって……。ね、そう言ったわよね?」
 アンジェリークは両手でぶにっとドラきちの頬──というのか胴体というのか──を挟みこんで、澄んでいるのか虚ろなのかもよく分からない瞳を覗き込んだ。
「天使サマの手ハ慈愛ノ手。だカラぼくたち魔物ハみーンな撫でナデ大好キだヨ」
「ほら! 今喋った!!」
 興奮した様子で三人のほうを振り返るアンジェリークだったが、それに反応したのはポピーだけだ。
「ドラきち、天使様の手が好きみたい。あのね、お父さんとわたしは魔物さんたちの言葉が分かるんだけど、他の人には言葉としては聞こえないの」

────彼の言葉がわかるのは、リュカ王とポピー王女だけだから。

 今の今までルヴァの心の中に引っかかっていたルイーダの言葉が、瞬く間に溶け去っていく。
「あー、あなたには鳴き声ではなく言葉として聞こえているんですか?」
 ぱたぱたと飛び戻ってきたドラきちをうまく捕まえて、ルヴァの言葉に小さく頷くポピー。
「はい。お父さんはもっと凄くて、魔物さんたちを改心させて仲間にしちゃうの」
 ということは魔法使いのマーリンも、恐らくは魔の存在なのだろうとルヴァは推察した。
 何故アンジェリークに魔物たちの言葉が理解できているのかという謎は残されたままだが、それは後々分かってくるだろうと考えた。
 へへ、と笑ったティミーが得意げに口を開く。
「お父さんは魔物使いだからね。お祖母ちゃん譲りの力なんだってお母さんが言ってた。……ねーもう皆集まってるよ、ごはん食べに行こうよー」
 ティミーが無邪気にドラきちの尾を掴むものの、特に痛がりもせず笑顔(?)のまま風船のようにぷかぷかと浮かんでいる。
「そうですねー。ではアンジェ、行きましょうか」
 中庭へ行ったときのように、二人の間に子供たちを挟んで手を繋いだ。
 その輪からあぶれたドラきちがルヴァの大きなフードに潜り込み、酷く驚いたルヴァの素っ頓狂な声に子供たちが大きな声で笑い合った。

 四人でのんびりと廊下を歩きながら、ルヴァの頭の中で少しずつパズルのピースが埋まっていく。
 散らかっていたひとつひとつの問題に光が射し始め、この先すべきことがようやくはっきりと輪郭を描き出した。

作品名:冒険の書をあなたに 作家名:しょうきち