冒険の書をあなたに
第七章 再び、グランバニアにて〜結婚式、そして地図にない島へ
翌朝ビアンカとアンジェリーク特製のパンやスープで腹ごしらえをして、一行は出立の準備をした。
アンジェリークとルヴァはダンカンに挨拶をしてそっと一行から離れ、最終決戦のため魔界へと向かうリュカ一家とダンカンの時間を邪魔しないように見守った。
「じゃあねお父さん。わたしたちちょっと遠出してくるけど、また来るから……体に気をつけて」
「おまえたちも体に気をつけて旅をするんだよ。あんまり無茶をしないようにな」
ダンカンは何も訊いてはこなかったが、リュカ一家が抱えている事情はうっすらと察している様子だった。
優しいまなざしでそっとビアンカたちを一人ひとり順に抱き締めて、ぽんぽんと背中を叩いた。
「お祖父ちゃん、またね!」
「今度は何かお土産持って来るね!」
子供たちが笑顔でダンカンに手を振って、リュカとビアンカとともに二人の側へと歩いてくる。
リュカがにこりと微笑んで二人の顔を見つめた。
「お待たせしました。それじゃあ、行きましょうか」
そしてルーラでグランバニア城前へと着くと、アンジェリークが不思議そうな顔をしていた。
「え、あれ? 海の神殿……じゃ、ないの?」
困った様子でルヴァの袖を引くが、彼は穏やかに微笑んだまま何も答えない。代わりにリュカが口を開く。
「お二人が帰る前にね……ぼくとビアンカの企みに巻き込まれて貰いますよ。ね、ビアンカ、ルヴァ?」
名を呼ばれた二人が楽しそうにこくりと頷く。アンジェリークは訳が分からないといったふうで三人を交互に見つめた。
以前にも似たようなことがあった、とアンジェリークが身構える。
「ま、まさかまた簀巻きにっ……」
引きつり始めたアンジェリークの表情に、ルヴァが慌ててフォローを入れる。
「あー大丈夫、大丈夫ですよアンジェ。簀巻きにはされませんよー」
「簀巻き『には』……?」
ぐぎぎ、と音がしそうなくらいに硬直した首を向けた愛しい天使の背を、ルヴァはそっと促した────衝撃発言とともに。
「これからね、私たちの結婚式をするんです」
数秒の間をおいてアンジェリークと子供たちの大声が城周辺の静かな森へと響き渡り、驚いた鳥の群れが飛び立っていった。