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LIFE! こぼれ話

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「なに、してんだ?」
 耳を掴まれたままというのは納得いかないが、痛くはなくなったので、訊いてみる。
「耳たぶくらいの固さ、というものを確かめている」
「は?」
 意味がわからず、調理台に目を向けた。そこには上新粉の空になった袋。
「だんご?」
 だんごの作り方が印字された袋には、確かに“耳たぶくらいの固さまで”と書いてあった。
「…………だからって、なんで、俺の耳で確かめるんだ! 自分のでやれよ!」
「平均的な固さを測ろうと思ってな」
「アンタと俺とで、平均なんて取れるわけないだろ……」
「まあ、そうだな。だが、他に人手がないから、仕方がない」
 仕方ないなら、自分だけで我慢しとけよ!
 ようやく耳を放した手に、腹立たしさを抱えながら台所を出ようとすると、
「外は寒いか?」
「あ、うん、ちょっと風が冷たいけど? なんで?」
 急に訊かれたので、不機嫌だったことも忘れて答える。
「耳が冷たくなっていた」
「っ……」
 なんだかわからないけど、顔が熱くなった。



「耳を貸せ」
 あれ? なんか、前にもこんなこと、あった気が……。
 調理台の前に立つアーチャーの隣に立って、その手元を覗き見る。
「だんご?」
「いや、これは白玉粉だ」
 だんご粉や上新粉みたいに粉状じゃなく、小さな白い粒がぎっしり詰まった袋が調理台に置かれている。
 白玉粉なのに、粉じゃないのか、と思いながら、開封されていないままのパッケージをじっと見る。ボウルも置いてあるし、これから、白玉を作るのか。
 善哉とかいいな、あんみつとかに入れてもいいし、抹茶プリンに添えてもいいかも……。
 色々と白玉の用途を妄想しつつ、作り方の印字面を見ていると、“耳たぶくらいの固さまで”という文字が目に入った。
 耳たぶくらい……、前にいきなり抓まれたよな……。
 よし、ちょっと仕返しでもしておこう。
 アーチャーの耳たぶを何も言わずに抓んだ。
 びく、と肩が揺れたのは、アーチャーの不意を突くことができたからみたいだ。
 意図してはいなかったけど、いつも隙が無いアーチャーの隙を突いた気がして、気分がいい。調子に乗ってそのままアーチャーの耳を抓み続ける。
 むにむに、むにむに。
 うん、案外硬い。でも、弾力がある。耳たぶってこんな感触なんだな。自分で耳たぶを触る癖は俺にはないから知らなかった。
「耳たぶくらいの固さって、こんなんなんだ」
 アーチャーの耳たぶを指で抓んだまま呟くと、鈍色の瞳がこちらを向く。
「士郎……」
 ゆっくりとこちらを振り返る、にーっこり笑ったアーチャーに、ハッとする。これは、何かマズいことを俺がやらかした感じだ。
「ま、前に、アーチャーも、確かめただろ? どど、どうせ、俺とアーチャーじゃ、たいして変わりもしないんだから……」
 言いながら後退る。
 すっと伸びてきた両手が耳を包んだ。びく、と身体が跳ねる。
「そんなに驚くことはないだろう?」
 笑いを含んだ声。
 絶対、何か企んでる。
 絶対、何かしてくる。
 耳を左右に軽く引っ張って、俺を覗き込むように腰を屈めて、アーチャーが目線を合わせてくる。
「今日も、冷たいな」
 耳をくすぐるアーチャーのあったかい手が、ちょっと気持ちよくなってくる。
「粉がまとまると、少しずつ水を足して、このくらいになるまでこねるんだが、白玉はまとまりにくくてな」
「あ、う、うん、そ、なん、だ」
 上手く声が出ない。
「だんごもいいが、白玉はつるりとして、モチモチした食感がいい」
 耳に口を寄せて囁かれる。ぞく、と震えが駆け上がる。
「アーチャー、も、わかっ、たっ、ひっ!」
 耳たぶに歯を立てられて、身体が竦む。
「士郎の耳たぶは白玉よりも食感がいいな」
 腰を引き寄せられて、アーチャーに抱き込まれ、耳を舐められる。
「バカ! も、やめ!」
「士郎が誘ったのだろう?」
「さ、誘って、なんか、ないだろ!」
「ならば、どうしてオレの耳を触った?」
「お、お前もやっただろ!」
 前に耳を貸せって、俺の耳を引っ張って、確かめてたじゃないか。
 顔を離したアーチャーを睨むと、少し驚いていたような目が、すっと細められる。
「……そうか。やはり、誘っているのだな」
「だ、だからぁ!」
 もがいても、もうダメだった。アーチャーの腕の中からは逃げられない。身体的な意味でも、精神的な意味でも……。
 嫌じゃない、なんて思ってる時点で、俺、ちょっと、問題アリだな、うん。
 もう二度と耳なんて貸さない、と決めた。


LIFE! こぼれ話 了(2016/6/29初出・10/14誤字訂正)
作品名:LIFE! こぼれ話 作家名:さやけ