LIFE! 9 ―Memorial―
少し腹に据えかねて、鼻をつまんでやると、苦しそうに唸っている。
“好き”という言葉が、これほどに心に響くものだとは思っていなかった。
オレも変わってきたのだろうか。以前に凛に指摘された時は、さほど何も思わなかったが。
“あなた、変ったわね”
士郎の結界から抜けてきたときに凛に言われた言葉。すでにあの時にオレには変化が起こっていたのだろうか。
いや、もっと以前に……。
士郎に完敗を喫してからだ。
純粋に、真っ直ぐに、オレを追いかける士郎の姿に、戦慄を覚えた。それと同時に、得体のしれない感情が芽生えた。
今思えば、オレはあの時点で士郎に心を奪われていたのかもしれない。
それを、オレの道理は許さなかった。
凛の契約を断ったのも、全てそれが、この感情が恐ろしかったからではないか?
現界すれば、否が応でも士郎と関わることになる。士郎に惹かれるオレがどこまで耐えられるか自信がなかったから、オレは凛の申し出を断ったのだろう……。
凛にはすまないことをした。彼女を傷つけてしまったかもしれない。
だから、これからも彼女の助けになろう、主従としてではなく、友として。士郎と巡り合わせてくれた彼女への感謝のしるしとして。
「ん、アーチャー?」
不意に士郎が目を覚ました。
「まだ夜中だ」
小さな欠伸をして士郎はまた微睡む。髪を撫でつけ、額に口づける。再び寝息が聞こえてくる。
この未熟なマスターを甘やかして、ずっと幸せだと笑っていられるように、守っていく。
そうして凛に胸を張って言わなければならない、今度こそ、
“大丈夫だよ、遠坂”と。
LIFE! 9 ――Memorial―― 了(2016/6/29初出・10/14誤字訂正)
作品名:LIFE! 9 ―Memorial― 作家名:さやけ