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オリヴィエの剣と、剣の祈り

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 座ったままでも書類にサインしやすいよう配慮された座りの浅いソファに背を凭せ、女中が整えていったテーブルの上の茶菓子を横に、ユーリは足置きにブーツを履いたままの両足を組んで座っていた。
 青く薄い陶磁器に注がれているハーブティーの香りがどこか懐かしく、外から差し込むやわらかい光を浴びながら目を閉じると、目蓋の裏にできたインク染みのような白い残影が、ゆっくりと眼窩に沈んでいく。
 音がないわけではない。けれど、とても静かな時間だった。
 穏やかな午後だった。
 親友の庶務室はいつもどおり整頓されていて空気がよく、開け放たれている窓からは花の匂いがしていた。暖かな陽気がそれを引き立てている。街角のガーベラみたいな匂いじゃなくて、少し品のある、良い手入れがされた花の匂いだ。今の城主の好みに合わせて、お抱えの庭師たちがその折々に腕を揮っている。いつか仲間たちと歩いたあの空中庭園も、今が見ごろだろうか。
 群生する白い花が真夜中に灯るように綻ぶあの美しい限りの庭だ。

 「長旅で疲れたかい?」
 ユーリは重たくなる瞼を持ち上げ、窓の向こうを見た。
 とてもささいなことだった。

 普段は気づくこともないような、時計の秒針のカチ、カチ、と規則正しく時を刻む音を主旋律にして、部屋にささやかに響いていた書類にペンを走らせる音が止まり、フレンの言うことに、ユーリは武醒魔導器を外して久しい手首を軽く振って鼻を鳴らす。構わずに自分の仕事をしろよという仕草に、フレンがペンを置こうとした手を止めると、またすぐに元通りの静かな時間が舞い戻ってきて、ユーリはソファに凭れたまま、フレンは書類を片す作業に戻った。

 それからしばらくの間、ユーリは窓辺に近いその場所で眠る。
 夢も見ずに、ただ、束の間。