東方神路録
「ふ……服装……が……」
人里らしきところには着いたが、やはりここは凪のいた普通の世界じゃないと、改めて痛感させられた。
まず、今凪が呟いたように服装がとても古い。恐らく、江戸から明治期にかけてのものだろう。
また、その服装に合うような街並みでもある。まるで京町をそっくりそのまま持ってきてしまったようなものであった。
そして───
「し、視線が痛え……」
何より、今のこの状況では凪の格好の方がおかしく見えるようだ。人とすれ違う度にくすくすといった笑い声が聞こえてくる。
とは言っても新しい服を買えるような金を持っていないし、仮に持っていたとしてもその通貨を使えるかどうかという次元だ。これは本格的に参った事になった。
恥ずかしい気持ちを抑え、街行く人に聞いてみた。
「あ、あの……少し相談が……」
この問いかけを、恐らく四人ほどにしたと思う。だが、その返答はほとんど同じ内容だった。
「東の端にでも行くと良い。そこには変わり者だけれど人の悩みを聞いてくれる『博麗神社』の巫女がいるよ」
手掛かりが限られた今の状況では、その真偽を問う暇など無かった。
凪は急いで東へと繋がる道を進んでいた。
「夜……出歩かない方が良かったかな……」
さっきルーミアに言われたように、黙って人里で過ごしていた方が良かったかもしれないが、今はそんな事を気にしていられる場合ではないので、ただひたすらその『博麗神社』とやらを目指していた。
そして────
「た……高えぇ……」
長い、長い階段の先に、鳥居があるのが見えた。
どうやら、着いたようだ。
幸い、ここまでの道筋で何かに出くわす事はなかった。もし何かあったら、その時は本当に終わっていたかもしれない。
それにしても
「長い……なぁ……ぜぇ……」
やっとの思いで上にたどり着いた時には、もう完全にへばっていた。
「い……いや……これ……神社としてどうなの立地条件───」
「あら、文句があるなら帰ってもらって構わないわよ」
そんな強気な声が前から飛んできた。さっと前を向くと、そこには赤い巫女服をまとった女性が凛と立っていた。
「里の人間の話を聞いたって奴が居てね。そいつがいち早く私のところに教えに来たのよ」
「え……貴女が……」
ざあっと、一筋の風が吹いた。
「そうよ。改めて自己紹介させてもらうわ────」
ふわりと、彼女が空に舞った。───飛んでるよこの人。
もう、驚く気力も無い。
「私はこの『博麗神社』の巫女をしている、博麗霊夢よ。宜しく」
「は……はは、宜しく……」
こうして、凪の幻想郷での不思議な生活が始まったのである。
♪~少女綺想曲 〜 Dream Battle