夏のひと思い出に
その手付きは慣れたもので、帯は彼の手によって綺麗に結ばれた。
正臣は嫌に羞恥心を感じた。
何というか、ただ帯を結んでもらうだけの行為なのに普段なら触れられない所に臨也の温度を感じる様な気がした。
「はい、どーぞ」
仕上がりを臨也は確認した後、うんと頷き手に帯に添えていた手を離した。
「ありがとう、ございます」
臨也の旋毛を見つめていた正臣は、臨也が自分の方へ顔を上げたので少し近い距離で見つめ合う形になった。
「よし、じゃあ行こうか」
臨也はいつもとは少し違う笑みを浮かべ正臣に右手を差し出した。
「え、どこへ、、?」
「夏のひと思い出でも作りにね」
いつもと違う、と感じたのは浴衣を着た彼がいつもと違うからなのか正臣には分からなかったけれど。
そのら右手を取ったのは間違いなく自分の意思で。
そんな自分の立ち位置を嬉しく思ったのも確かで。
十人十色、とはよく言ったもので、こんな瞬間に幸せを感じてしまったの本当なのだ。