同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語
流留は数秒沈黙の後、頭を振って那美恵に向かって口を開いた。目の前の生徒会長の語る言葉は意味がわからない・時々厳しく肌に当たる感じがする。しかしなんとなく心まで突き刺さり響くものがある。流留にしては珍しく、話してると気が楽な、心が暖かくなれる同性。縁と言われても正直実感はないし、その場のノリで言っているだけなのかもしれない。本当になんとなく、わずかではあるが、この人なら安心できるかもと流留は心を揺さぶられ始めていた。
「いいえ。そこまで言ってくれるんなら、少なくとも生徒会長は信用します。でも…それでもまだあたしは、すみません。100%は学校のみんなを、同性を信じられない。あたしの……日常を壊した同性が……憎いです。日常を壊されたくない……怖い。」
流留は言葉の最後に表情を歪めて感情を露わにする。
那美恵はその微妙な仕草を逃さない。すかさず反芻した。
「日常?」
流留はしまったと思い、ハッとした。しかし遅い。彼女の右前にいる生徒会長は興味津々に視線を送ってくる。流留は言葉に詰まる。 ついに本音の一部が漏れてしまった。
「えと……あの……。」
「んふふ〜。それがあなたの本心、なのかな?」
那美恵はニンマリした顔で流留を見つめる。
「な、なんですかそのいやらしい顔……?」
「ううん。少しでもあなたが本当の気持ちを出してくれたのがうれしくって。」
「うぇ!?」
たじろぐ流留を目の当たりにして那美恵はアタックを弱めない。
「話すと、きっと楽になると思うよ。さぁさぁ白状しちゃえ〜〜。」
人を食って掛かるその態度、流留はそういうのが嫌いだった。
「そ、そういう言い方やめてください。」
「エヘヘ。ゴメン。調子に乗っちゃった。でもあなたの本心がほんの少し見えてね、あたし嬉しいんだよ。これは本当。その……さ、あなたのその日常とやらに、三戸くんは入っているのかもしれないけれど、そこにあたしも入れてくれないかな?」
「え!?」
那美恵の言い回しに流留は激しく心揺さぶられた。光主那美恵その人の普段の調子や態度はこちらの調子が狂わされるものがあるが、それは心から嫌というのではない。不思議と心落ちつき、引き寄せられていく。その喜なる感情を伴った戸惑いが流留に一言だけの口を開かせる。
「あ、あたしの……日常?」
「うん。あなたの〜日常を、ちょっとだけ非日常にしちゃったりするかもだけど、それはとっても楽しくてあなたなら気に入ってくれるってほしょ〜するよ!」
あるときはお調子者っぽく、あるときはまじめに全力で取り組む、自分らの高校のすごいと評判の生徒の筆頭。そんな光主那美恵を慕う人は多い。
「うりうり〜。ど〜ですかぁ、今あたしを買ってくれればお買い得だよぉ〜。」
那美恵は相手の脇腹をつつくかのごとく肘を連続で突き出す。当然位置関係からして流留には当たっていない。
「ちょ、会長。説得するのかふざけるのか……。」
三戸がアタフタとするが那美恵は一切気にしない。
もし初めて同性の友達を作るなら、この人ならば気が楽で安心できるのかも、この人になら自分の思いを打ち明けてもいいのではないか。
自分に親身になってくれているというなら、この人に甘えたっていいのではないか。
頼れる年上の人。
冷静に考える。艦娘になるのなら、少なくとも流留にとって光主那美恵という存在は卒業までずっと近くにいる存在になる。従兄弟たちのように一緒にいられるかもしれないし自分を裏切らない。助け続けてくれる。
そう思考が方向性を定めた流留の心は動き始め、欠けていた何かを掴めそうな気がした。
((光主那美恵さんに、あたしの日常にいてもらいたい。いてもらえたら、学校でのこれからの日常を我慢して過ごせるのなら……))
そして流留の心は、その根底から決まった。
決意した瞬間、彼女の目からはポロポロと涙がこぼれ落ち始めた。そこまでの刹那、傍から見れば突然流留が泣き出したように見える。それを見て慌てる那美恵と三戸。
「あーあー!内田さん泣いちゃったじゃないっすか!会長が冗談めいた事言ってからかうからっすよ!」
三戸が那美恵に突っ込むように責め立てる。三戸が煽ったので那美恵はさらにうろたえて三戸と流留の顔を何度も見返す。
「え?え?え? あたしの言葉そんなにきつかったかなぁ!?あたしまずいこと聞いちゃった? ゴメンね〜!!」
那美恵は椅子から腰を上げて流留に寄り添い、肩に手を当てつつ近くで謝り続ける。
「ゴメン! あたしったら、まだそんなに親しいわけじゃないのに、触れられたくないことだってあるよね?だかr
「いえ。そんなんじゃないんです。」
流留は鼻をすすり、涙を拭ったあと、言葉を続けた。
「色々考えちゃって。あたし……。」
「内田さん?」
「生徒会長。あなたのこと、信じてもいいですか?」
「……うん。あたしがどこまであなたの力になれるかわからないけど、あたしが守ってあげる。信じて。」
「じゃあ、艦娘になったら、一緒にいてくれますか?」
「え?あぁうん。そりゃあもちろん! あたしは1年早く卒業しちゃうけどそれでもいいならね〜」
「それでも、いいです。鎮守府ってところにいけばいつでも会えるんですよね? 頼ってもいいんなら、とことん頼っちゃいますよ。ホントにいいんですね?」
那美恵はコクリと頷いた。
「うん。なにがあっても、あたしはあなたの味方だよ。学校内でも学校の外でも、できるかぎり守ってあげる。だから安心して。あ!でもただじゃ頼らせないよ〜。その対価は身体で支払ってもらうからね〜」
「え゛!?」
流留は軽く引いた。三戸は何かを妄想してしまったのか頬を赤らめてポカーンと見ている。普段那美恵の態度や一言にすかさずツッコミを入れてくれる親友は隣の部屋なので、ボケが宙ぶらりんになる。
仕方なくツッコミ説明を交えて話を戻す。
「身体って何やねん!って突っ込んでくれないとぉ〜。」
「へ?あ、あぁ〜はい。すみません。」
「まぁいいや。つまりね。鎮守府にはいろんな学校の生徒さんが来るんだし、うちの高校の代表として恥ずかしくないようにしてってこと。ビシビシ鍛えてあげるから覚悟してよね。おっけぃ?」
流留が納得した様子を見せると、ウンウンと那美恵は頷いた。
それを見て誰からともなしにプッ、クスクスと笑い始める。流留はすっかり泣き止み、少し充血した目は元の白さを取り戻し、その目は下瞼が少し上がって笑みを作っている。
流留は思った。生徒会長はこういう人なのだ。無条件で頼らせてくれるわけじゃない。優しいだけじゃない。お調子者なだけじゃない。言い方は軽いがその中身はきっと厳しい。安心できる厳しさ。
きっと、光主那美恵を慕う人は、彼女の人たらしたらんところに惹かれるのかも、そう流留は感じた。
「会長になら、あたしの本当のことを話します。あたしの日常を、助けてください。それから、友達になってください!」
作品名:同調率99%の少女(9) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis