ルパン三世~赤い十字架~
Episode.7 異国の招待
日本。勢いよく流れる川、その川を登りゆく魚の群れ。
川上の滝に打たれる男が一人。
「拙者も跳ねるが如く命を咲かすべき、か…」
十三代目石川五右衛門。居合の達人。
愛刀、斬鉄剣で何でも真っ二つにしてしまう怒らせると怖い男。
ふんどし一枚で雑念を飛ばす。彼の手にはしっかりと斬鉄剣が握られている。
まるで滝に打たれる仁王のようだ。
彼の刀を狙うものは多い。
これまた時代錯誤な忍まで彼を付け狙っている始末だった。
突然、五右衛門の目がカッと開き、片方の手を顔の辺りに持ってくる。その手に吸い込まれるようにして文の付いた一本の矢が指と指の間に挟まった。
「…何者」
刀と矢を握り締め、滝から上がり着物を羽織る。殺気は感じない。
何かしらの伝言が目的のようだった。
括りつけられた文に目を通した五右衛門は
表情を曇らせた。
文には
[Invenies rubrum propitiationis]
と書かれている。
「…読めぬ」
鼻からゆっくりと息を吸い込み、苛立ちを抑えた。
一体誰が何の目的でこのような言語の違う文を…。
疑問と同時に嫌なものを感じた。
ふと、崖の上から声が響く。
「五右衛門、こんな所に居たのか」
「左京殿」
小松音左京。屈託のない性格の男。
五右衛門が一時的に身を寄せている道場の師範代であり、昔五右衛門を襲った忍び衆の抜け忍でもある。
歳は五右衛門と余り変わらないぐらいだという。五右衛門の剣の腕に惚込み、友として信頼を置く仲である。
「なんだ、浮かない顔をして」
「妙な文が届いた」
左京は崖を軽い身のこなしでぽんと飛び降り、静かに五右衛門の前に着地する。
「どれどれ…Invenies rubrum propitiationis…こりゃ、ラテン語だな」
「して、意味は?」
「汝、赤い贖罪を求めよ、だとさ」
「不吉だ…」
「ん?待て。まだ何か書いてあるな…こりゃ、神代文字…所謂忍者文字だな。パリに飛べ、とある」
「何故その様な異国に」
「分からん。でも忍は異国で言う所のスパイだからな。俺達日本人が知らない裏で大昔に交流が合ったのかもしれん。ローマ、ギリシャ語なんかも暗号に何かしら関係があるとも聞く。いやぁ、浪漫だね」
「相も変わらず其方は博識だな」
「で?どうするんだ?」
「赴いて何があるのか」
「さあ、俺にもさっぱり。でもあちらに行けば呼び出した主から接触してくるんじゃないか?その時は…」
「斬る」
「怖いねぇ、おサムライさんは。しかし何故ラテン語や忍者文字で書いたのか。俺にも読ませる魂胆だったのか。そうなれば些か俺も高みの見物とはいかないわけだ」
「其方に読ませる…左京殿の素性を知る者。つまりは」
「恐らく鬼面衆」
鬼面衆。五右衛門の斬鉄剣を執拗に狙う忍び衆。左京が昔命を預けた場所でもある。
「しばらく動きはなかったがまた動き出したか。やはりどうしても斬鉄剣と俺の命が欲しいらしい。どうする?五右衛門。奴等が動いているとすれば…」
「パリに赴く」
「そうか、じゃあ俺は日本で情報を集めよう…パリへの旅費、それと連絡用の携帯は俺が用意しよう。アンタが無一文なのは知ってる」
そう言って左京が笑う。
かたじけないと五右衛門は申し訳なく一礼をし、口をへの字にしたまま空を見上げた。
作品名:ルパン三世~赤い十字架~ 作家名:Kench