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【APH】無題ドキュメントⅥ

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「…神聖、ローマ…」

出迎えたプロイセンの傍らに立つ子どもを見つめ、オーストリアは言葉を失ったかのように絶句した。



 第二次パリ条約が締結し、ウィーン体制の敷かれた欧州は束の間の平和を取り戻しつつあった。国としての機能が回復していくのと同時に、傷も癒える。忙しさもひと段落し、漸く包帯の取れた身体に安心したのは子どもだったようだ。今まで遠慮していたらしいが遠乗りに行きたいと遠まわしに我儘を言ってきた。人の機微など知ったことかな傍若無人なプロイセンだが、子どもには何故か不思議なほど気が回る。ひとつ返事で了承し、どこに行こうか弁当はどうするかと話していたときだ。使用人が客人の来訪を告げた。

「…あー、そういや、今日来るって言ってたな。…ロビーで待たせとけ。直ぐに行く」

「かしこまりました」
使用人が下がり、プロイセンは子どもに向き直る。
「ルートヴィッヒ、オーストリアの前で俺を兄とは呼ぶなよ」
「どうしてだ?」
「あいつに色々警戒されるのは、今はまずいからな。お前はあくまでも俺の世話になっているだけと言うことにしとけ。あいつに俺のことで何か言われても、流せ。お前は賢い子だから、俺の言ってることが解るな?」
「…解った」
頷いた子どもの頬を撫で、プロイセンは膝を付き、その頬にキスを落とす。
「俺はお前の従順なる僕だ。俺を信じろ」
「兄さんを俺は疑ったりしない。おれはおれの騎士を信じる」
真っ直ぐに見つめてくる青に、プロイセンは微笑を浮かべ、子どもの髪を乱暴に梳くと立ち上がった。

「…さて、三文芝居の幕開けだ」










 絶句したオーストリアを見つめ、プロイセンはオーストリアの傍らに立ち、同じように驚いたような顔で子どもを見つめるハンガリーを見やった。
(…オーストリアの警護か。ご苦労なこった)
古い顔馴染みはどうやら神聖ローマを知っているらしい。…袂を分かち、それからはオーストリアのところにいたのだから、知っていて当然か。…プロイセンは傍らに立つ子どもを見やる。子どもは動揺することまなく、オーストリアを見上げた。
「あなたが、オーストリアか?」
「…ええ。そうです」
子どもの声にはっとしたようにオーストリアは紫玉を瞬かせた。
「残念ながら、おれにはあなたに名乗れる名前が無い。便宜上、ルートヴィッヒと呼んでくれ」
作品名:【APH】無題ドキュメントⅥ 作家名:冬故