【APH】無題ドキュメントⅥ
唇を尖らせるその顔の何もかもが、違う。あの長く苦しい戦いで、愛する男のために傷を負いながらも剣を向けてきた者とも、違う。
…ああ、やっぱり、女、なのだ。
と思う。それに、自分は安堵しているのか、落胆しているのか…。
「さあな」
プロイセンは素っ気無い返事を返す。
…昔はお互いの背中を守り、時には反発しながらも、ずっと一緒に背中を合わせて戦っていくのだと思ってた。あの日までは。
『…笑えよ。オレ、女だったんだ…』
ひらりと目の前で翻ったのは見慣れた騎士の略装ではなく、若草色のスカート。中途半端な長さの乾いた髪には不釣合いな花飾り。
『どうして!!お前とずっと…、一緒にいたかったのにっっ……』
叫び、慟哭の果て、知っていながら告げずにいたマリアを、この世界を憎んだマジャルはもういない。
プロイセンは指を掛けた枝を折る。
マジャルは死んだ。
男でも女でも関係なかった。背中を預けられるのは、こいつだけだと思ってた。ずっと一緒に戦っていくのだと思ってた。
手を振り払ったのは、マジャル。
その手を追わなかったのは、マリア。
追えなかった。自分の良く見知ったマジャルはいなかった。
そして、もう元には戻らない。
だって、大好きだったマジャルはもういない。
ずっと自分が欲しかったものは、今、この手の中にある。
過ぎた感傷は邪魔なだけだ。
戻らぬ乾いた音が冬枯れの庭に響いた。
オワリ
作品名:【APH】無題ドキュメントⅥ 作家名:冬故