つま先立ちの恋に慣れたら
「奈々」
「・・・・」
「いいかげん、こっち向いてくれない?」
耳元でささやくと、髪の間から見える耳が真っ赤になるのが分かった。帯びる熱が少し伝わってきて、今すぐ甘噛みしたい衝動を抑える。頑なに結んでいる腕同士をほどいて後ろから体全体で包むように抱きしめると、彼女の鼓動が速まるのが聞こえてくる。
「・・・・近い、です・・・!!」
「泊まっといて、今さらでしょ。奈々は天然で可愛いな」
「~~~~~~っ、そんなの知りません・・・!」
「怖かったね、笑って悪かったよ」
「分かってくれたなら、いいです」
「うん」
「泊まりに来てよかったです」
「?」
「悪夢で怖いって理由で誰かを起こして話すなんて、とてもできません」
奈々は血のつながった家族と一緒に住んでいないことは怜治も知っていた。そして親戚と住んでいるものの、心から甘えることが出来ずにいることも。自分が家族に近い存在になりつつあると思ってもいいのだろうか。もしそうだとしたら、すごく嬉しくなった。心から甘えられる唯一の居場所が、自分だなんて。
「好きなだけ甘えて。色んな奈々を、俺に見せてよ」
「・・・・・・」
「まだ恥ずかしいの?」
「怜治さんの感覚がちょっと変わってるんじゃないですか?」
「そうかな?少しずつ慣れていったらいいよ」
「そうですか・・・・」
前はこれでもかってくらい真っ赤になっていたのに、少し慣れたのかほんのり赤くなる程度だ。これを言うと調子に乗りそうなのであえて言わないが、反応が薄くなっていくのは少し残念だ。その反面、自分色に染まってきている証だから、嬉しくもあるが。
作品名:つま先立ちの恋に慣れたら 作家名:yuuuuuka