つま先立ちの恋に慣れたら
私服に着替えた後、さっそくA町へと家を出た。11月の風は冷たく、鼻と頬がひりついて思わず身震いし、首に巻いたマフラーにさらに顔をうずめる。早く会いたい奈々はただ足を速めた。
A町のどこかにいる怜治をしばらく探していると、見つけた。おしゃれなカフェを貸し切って、テラスで女性と二人で話している。どうやらインタビューらしく、真剣な様子が伝わってくる。周りにはカメラマンやアシスタントがいて、現場はかなり華やかだ。
(うわあ・・・!!芸能人の顔だ)
そこには普段奈々と会うときの怜治はなかった。完全にアイドルとしてのプロになっている怜治の姿を見て、奈々は少し感動した。
(こんな怜治さん、見たことない)
かっこいい。こんな人が自分の彼氏なんて。奈々は今までよりもっと誇らしい気持ちになった。それと同時にストライドも日舞も芸能活動もこなす怜治はやっぱりすごいと尊敬する。自分も隣にいて恥ずかしくない人でいたい。自分磨きをしなきゃ・・・!
撮影の間しばらく見ていたが、結局気づかれることはなく、カメラマンたちが後片付けをしだしたので、満足な気分のまま私も帰ろうと、奈々もピリカに引き返そうとした。
しかし秋ということもあって日が短く、あたりはすっかり暗くなっていた。あまり夜の道は得意ではない。これは急がなきゃ・・・・!と早歩きで歩いていた途中、後ろから男性の声がした。
「ね、きみ!ちょっとちょっと!今から俺たちと遊ばない?」
振り返ると背の高い、ノリが軽そうな派手な男の人たちがいた。せっかくだが遊ぶには時間が遅く、怜治がいるのにそれはどうかと思い、やんわり断ろうとした。
「ごめんなさい、実家に戻らなきゃいけないので・・・」
「えーいいじゃん、そんなこと言わないでさ!」
何度言っても相手は折れてくれず、どうしようかと頭をひねっていると、男性たちは焦れたのか奈々の腕をつかんで引っ張ろうとしてきた。
「大丈夫だから!なんにも怖くないから!」
「ちょっと、困ります!離してください・・・!!」
力の差がありすぎて、抵抗しても男の側に引っ張られる。掴んでいる手に力がこめられ、腕にきりきりと鈍い痛みが走る。これはさすがにやばい、と身の危険を感じたときだった。
作品名:つま先立ちの恋に慣れたら 作家名:yuuuuuka