つま先立ちの恋に慣れたら
「・・・奈々?」
透きとおった聞き覚えのある声。奈々は涙が出そうになった。
「れいじ、さん」
「え?なに、もしかして彼氏いたの?」
「ええ、その子の彼氏です。奈々、どうして手をつないでるの?」
怜治は男たちに会釈をし、奈々に問いかける。彼らは諏訪怜治だとまだ気づいていないようだ。無理もないと彼女は思った。なんせ帽子を目深にかぶり、大きなサングラスをしていたのだから。
「帰ろうと思ったら遊ぼうって誘われて、断ってもなかなか離してくれなくて・・・」
「それは困ったな。失礼ですけど、嫌がっている女の子を無理やり連れていくんですか?」
「・・・・っ、別にちょっと誘っただけだよ!あーくそ、気分悪りぃ」
「じゃあ、いいかげん離してもらいましょうか。・・・俺の彼女だし」
軽くサングラスを傾けて目だけ男たちの方に見せると、彼らは一気に青ざめて叫んだ。
「「諏訪怜治かよ!?」」
「すみません、大声は控えてもらっても・・・見つかったら騒ぎになるんで、ね?」
にこにこと満面の笑みで彼らに語り掛ける口調は柔らかかったが、奈々は恐怖を覚えた。----完全に怒っている。怜治が発する言葉には何とも言えない怒気がこめられていて、男たちもそれを感じたようだった。
「す、すみませんでした・・・!!」
「おい、もう行くぞ、やばいって!」
「あ、ちょっと待って。ここにいたことは絶対言わないで下さいね。・・・じゃないと俺の彼女に手を出そうとしたことも含めて、そちらがどうなるかはご想像にお任せしますけど」
アイドルスマイルを浮かべたまま、最後は刺々しい言葉を放つ怜治に、男たちは顔が青ざめ引きつり、一目散にどこかへ逃げていった。
作品名:つま先立ちの恋に慣れたら 作家名:yuuuuuka