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つま先立ちの恋に慣れたら

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 「怜治さん、どうしたんですか?」

使われていない個室のドアの鍵を閉めて、奈々の方へ向き直る。奈々は怜治の黒いオーラに気づかず、状況をよくわかっていないようだ。

 「さっきの、見ちゃったんだ」
 「さっき?」
 「八神と何かしていたよね?」
 「八神くん・・・・?」

 一体何のことだろうと、奈々は首をひねる。心当たりがないので話しようがなく黙っていたら、怜治が目の前に来て、顔を覗き込まれた。

 「れ、怜治さん、近いです・・・!」
 「この距離で、彼とキスしてなかった?」
 「キ、キス!?してません!!なにかついていたので取ってもらったんです」
 「え?・・・・・・なんだ、そうだったの」

 怜治は拍子抜けしてしまった。角度の問題でそう見えていただけだったのか。よかった、確かによく考えてみると、公衆の面前でキスする男女はなかなかいない。彼女のこととなると常識うんぬんを考えるのを忘れてしまうらしい。彼は安心して、誰にも見られないところで奈々を抱きしめる。

 「はあ、よかった。他の男にされたのかと思って気が気じゃなかったんだ」
 「そんなこと、怜治さんじゃなかったら全速力で逃げてます」
 「・・・でも、君がとっていいって、言ったの?」
 「はい、自分で取れなかったので」
 「・・・・奈々は異性の顔に触れてもドキドキしないの?」
 「・・・・・!」

 ようやく自分のしたことに気づいたようで、大きく目を見開いた。半開きになった口元を、人差し指の先でそっと抑えてから優しく微笑む。

 「他の男に勘違いさせるようなこと、もうしちゃだめだよ?」
 「あ・・・・はいぃ・・・・」
 「俺からのお願い、ね?」
 「分かりましたっ・・・」



  誰にでも 隙だらけ
       (しばらく気を抜けそうにないな)






お題元:確かに恋だった 様