つま先立ちの恋に慣れたら
「お待たせしました!」
奈々がテーブルに運んできたのは和食だった。魚の照り焼き、お味噌汁、厚焼き卵、ごはん・・・。どれもつやがあり、とてもおいしそうだ。
「冷めないうちに食べちゃってください!」
「うん・・・!おいしそうだね、いただきます」
料理はどれも美味しかった。味付けはほどよく、野菜の切り方も均一で整っている。見た目もきれいでこげついていない。
「こんなにおいしいなんて、奈々はいい奥さんになるね」
「・・・そこまで言われると、照れちゃいます。でも、とっても嬉しいです!」
「本当のことだよ。最近忙しくて、ロケ弁や出来合いのものばかりだったからさ。こういうちゃんとした食事をするのは久しぶりなんだ」
「それなら何よりです・・・!!」
すっかり怜治のペースに乗せられっぱなしの奈々は、照れと嬉しさとでうまく話せないでいた。うつむきながらも笑顔が隠せない彼女を見た怜治は、反応が初々しくて心が洗われたような気分になる。しばらく食べていると、ふと彼女の指先が目に入った。
「それ、どうしたの?」
怜治は箸を止めて奈々の手を取りよく見ると、人差し指の側面に軽く切った跡がある。もう治っているものの、少し痛々しくて思わず顔をしかめた。
「こ、これは・・・その、ですね、手が滑っちゃって包丁でつい・・・」
「・・・・・・・」
「でも、全然大したことないです!ほら、傷もふさがってるしーーーーー」
-----ちゅう。
言い終わる前に怜治は奈々の指先に唇を寄せる。
「怜治さんっ・・・・」
彼女の顔が真っ赤になり、体が緊張でこわばるのが分かる。怜治は分かっててしばらくやめなかった。
「料理、練習してくれたの?」
「・・・はい」
奈々の声はか細く消えそうだった。気づかれたくなかったのだろうか。
「おいしいもの食べてほしかったから」
「もしかして遅くなったのも、昨日までしてたから?」
「ううっ・・・なんで分かるんですか~~」
「俺は奈々のことなら大体分かるよ」
自分のために料理の練習をする奈々の姿を想像し、怜治はますます彼女のことが愛おしくなった。
「あんまり無茶しないで。ほら、手も荒れてる。俺のためにがんばったのはすごく嬉しいけどね」
「あっ・・・もういいです・・十分です、は、はな、離してください・・・・・・!」
「あと十分ね。分かった」
「そっちの十分じゃないーーーーーーー!!!」
指先に唇をあてたり、舌でなぞったりしていると、耐えられなくなったのか逃げ腰になる奈々を引きよせ、逃がさないようにした。
甘くしびれる かなしばり
(ずっとされたら頭はたらかなくなります・・・!!)
(たまにはいいんじゃない?)
(良くないです!!)
お題元:確かに恋だった 様
作品名:つま先立ちの恋に慣れたら 作家名:yuuuuuka