つま先立ちの恋に慣れたら
自宅まで送ってもらった後、一段落してから怜治は奈々に電話を入れた。声が聞きたくて、少しだけはやる気持ちを抑えつつ、着信ボタンを押す。
「はいっ!桜井です」
「うん、俺だけど、いま時間いいかな?」
「大丈夫ですよ!えっと、スマホを持ってるってことは・・・」
「うん、見たよ」
「見ましたか・・・!」
「見てほしくて送ったんじゃないの?」
「っ・・・はい、見てほしかったです!」
怜治は会話のやり取りがおかしくて少し笑ってしまった。ジト目でにらむ奈々が目に浮かぶ。
「俺に会いたかった?」
「・・・あいたかった、デス」
「俺もすごく会いたかった」
「!!・・・怜治さん、そういうことさらっと言えますよね」
「それ、奈々に言われたくないな」
「どういう意味ですか~!?」
「ふふ。なんだろう?ねえ、メッセージも電話もしたら、もっと会いたくなったんだけど、いまから会えない?」
「え!?」
「だめなら全然いいんだけど」
「いや・・その、大丈夫です!」
「よかった。こんな時間だし暗いから見つからないし、そっちの家の近くの、噴水のある公園でいいかな?ゆっくりきてね」
「わ、分かりました、行きます!」
「またあとで」
「はい、またあとで、ですね」
電話を切った後、怜治はすぐに家を出て公園へ向かい、奈々を待った。思い返してみると、ここ2週間奈々と全く連絡してなかったことに気づいた。だるい体を押してでも奈々に会いたいなんて、自分の気持ちの大きさにただ驚くばかりだ。自分に会えなくて、どんな思いで過ごしていたんだろうか。全然彼女の気持ちを考えてないじゃないかーーーー。疲れているからか、考えが悪い方へと向かってしまう。
「怜治さん!」
振り返ると、髪を下ろしたジャージ姿の奈々がそこにいた。息が少しだけ浅い。走ってきてくれたのだろうか、ゆっくりでいいって言ったのに。
「・・・息、切れてる?」
「早く行きたかった、ですから・・・・」
語尾が小さくなったかと思ったら、奈々は両手で口を押さえてうつむき、しまったという顔をしている。ああ、こんな仕草ですら可愛い。顔を見たら疲れているはずの体が軽くなるのを感じ、自分の気持ちを止められなかった。
「ごめんね、それに、こんな遅くに」
「わわっ・・・」
奈々の華奢な背中を抱きしめると、お風呂上がりの匂いがした。自分のせいで走らせて、またシャワーを浴びる手間をかけさせてしまった。彼女に迷惑をかけるなんてダメな彼氏だ。奈々にとって誰よりも自分を頼りにしてほしいのに。
作品名:つま先立ちの恋に慣れたら 作家名:yuuuuuka