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「FRAME」 ――邂逅録1 不易編

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 砂にまみれ、礫にまみれて、じっとほとぼりが冷めるのを待つ。やがて轟音が止み、爆風がおさまった。爆撃機の音も遠ざかっていく。
「衛宮士郎、無事か?」
 エミヤの外套から顔を出した士郎は少し噎せてから息をつく。
「アンタ、無茶するよな……」
 苦笑を浮かべながら士郎は身体を起こす。
「放っておけばいいだろ……」
「そういうわけにはいかない」
 エミヤは立ち上がって士郎に右手を差し伸べる。
 目を瞠ったままで動かない士郎に、エミヤは首を傾げ、ああ、と思い至った。士郎の右腕は動かないようだ。士郎の右手を取ろうと腰を屈めた。
「アンタは、俺のこと……」
 まるで泣き出しそうな顔で何かを訴えようとした士郎は、ハッとして背後を振り返った。
 その姿を見たまま、エミヤは硬直してしまう。
「っく……」
 エミヤの呻きを聞いた士郎が再びエミヤを見上げた。
「エミヤ……?」
 エミヤは答えることができない。言葉を紡げない。動きを封じられている。視界に魔術師らしき姿を捉えた。
 囲まれている。十数人の魔術師がいる。
 逃げろ、と士郎に伝えようとするが、声すらまともに出せない。
「……エミヤ、助けてくれて、ありがとな。無駄になっちまったけどさ」
 士郎は笑う。悲しげに。
(この笑顔を私は知っている……? この表情を、私は……)
 やるせない既視感。
 どうすればいいかわからず途方に暮れたことが、確かにある。
 上空を見上げた士郎は、ふ、と息を吐く。
「空は……青いな……」
 そんな言葉をどこかで聞いた。
(いつ、どこで、誰が言った?)
 ちか、と脳裏にその光景が瞬いた。
 ちか、ちか、とその瞬間が、コマ送りのように動いていく。
 銃を構えた士郎、槍で貫かれて血を吐いた士郎……。
(最期に、空が青いか、と、訊いて……?)
 砂利を踏みしめる足音にハッとする。
 士郎の後方に槍を持つ魔術師がいる。
「……っ、……」
 声が出ない、力が出せない、魔力が使えない。
 どうしてだ、とエミヤは己を戒める魔術に歯噛みする。
(救えない!)
 士郎の命すら救えない。
 頼まれたわけではない。仕事でもない。だが、
(私は救いたいのだ! この、目の前の命をっ!)
 視線の先の士郎は笑った。
 眩しげにエミヤを見上げて、何もかもを諦めた顔で、士郎は笑っている。魔術師が槍を肩に担いだ。
(この、……)
 今ここで見過ごすことなどできない。
 何も訊かないままで、士郎と別れることなどできない。
 まして、目の前のこの命を救えないなど、守護者としての矜持が許さない。
 抹殺対象ではない者を、みすみす見殺しになど、絶対にあり得ない。
 戒めなど知ったことか、今、救えないで何が正義の味方だ!
 今、目の前の命を、全力で救え!
「こ……っ、のっ、たわけっ!」
 声が出たとともに詠唱を開始。
 固有結界が発動した熱風が、槍を持つ魔術師を吹き飛ばした。
「ア……アーチャー……?」
 士郎が呆然と呟く。
「世話を焼かせるな、大馬鹿者が!」
 結界発動に慄いていた魔術師が一斉に攻撃態勢に入ったが、その喉元に空間から現れ出た剣の切っ先が突き付けられる。
「おとなしくしていろ、魔術師ども」
 エミヤの肚の底に響く低い声に一喝されずとも、魔術師たちは動けない。
 喉元に剣があるのだ。避けようとしても常にぴったりと喉に貼り付いているため、逃れられない。おとなしくするより他はない。
「衛宮士郎、何があったのかを、今の私は覚えていない。だが、この場は二度目なのだ。一度目はお前を助けられなかった。だが、今回はかろうじて命を救うことはできている。私にお前を助けさせてはくれないか?」
 士郎の前に片膝をつき、エミヤは呆然としたままの士郎に伺う。
「なに、言ってんだ、アンタ……。アンタは守護者だろ……、俺を助けるってことは、アンタ、自分を助けるってことじゃないか、それはエミヤシロウの定義に反するだろ……」
「定義などない。私は目の前のお前を救いたい。それだけだ」
「そんなの、無理だ。アンタの“仕事”は終わった。もう消えるんだ。それに、アンタに俺の命を救うことなんてできない。俺は生きていれば、またこうやって命を狙われる。俺が、身勝手をした奴らを許さないんだ。そいつらが俺を消そうとしてくるのは、当たり前のことだろ?」
「では、私がそうできないようにしよう」
「は? アンタ、なに言ってんだ?」
「契約をすればいいだろう。お前が命を狙われるようなことをしないよう、私が見張っておく。そして、お前の命を救うという私の欲求も満たされる。それで、問題は解決だ」
「そ、そんなわけにいかないだろ! げんに、こいつらだって――」
「そうね、それで、問題は解決だわ!」
 きっぱりとした声に、二人はそちらを振り向いた。
「凛……」
「遠……坂……」
「久しぶりね、アーチャー、士郎も……」
 エミヤは懐かしさに頬が緩む。対して士郎は凛から顔を背けた。
「全員、手を引いて。ここは私の権限でおさめてもらうわよ。少しでも変な真似したら、病院送りじゃ済まないから、覚悟して!」
 魔術師たちに高らかに宣言した凛は、エミヤに顔を向ける。
「アーチャー、あなたも、剣と結界をおさめてくれるわね?」
 魔術師たちを見回して、エミヤは頷き、剣を消し、結界を解いた。
「衛宮士郎、“仕事”が終わった今、この瞬間、私はフリーだ」
「アンタ、本気なのかよ……」
 じっと見上げてくる士郎にエミヤは頷き、微笑を浮かべる。
「っ……、し、知らない、からな!」
 左手をエミヤの胸元に当て、士郎はエミヤとの契約を果たした。



「FRAME」 ――邂逅録1 不易編 了(2016/9/13)