二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

「FRAME」 ――邂逅録1 不易編

INDEX|10ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

「知って、るよ、そん、な、こと」
 だからじっとしているんだ、と士郎は忌々しげにエミヤから顔を背けた。
「さわ、るなよ」
 肩に載ったエミヤの手を払い除けて、士郎は壁に身体を引っ付けるようにエミヤから離れようとする。
 ムッとした。エミヤは苛立っている。どうしたのか、と自ら不思議に思うほどに。
 だが、こんな、わけのわからない薬を飲まされ、あんな男にどうこうされそうになり、今、辛そうにしている。
 その上、そんな自身を省みる素振りはなく、まるでどうでもいいようになげやりだ。
 この苛立ちはなんだ、と思いながらも身体が動く。エミヤは無理やり士郎の肩を引き、転がした。
「ふん。飲まされた物すらわからず、対処のしようがない、とは、情けない奴だな」
「っるせぇ、アンタに、関係、ない、だろ」
「ああ、関係ないな。お前がどこで何をしようと、どこの男と愉しもうとな」
「そんな、趣味、ねぇよ」
「何を言うか、貴様。フェラなどさせて、そんな趣味はないだと?」
 呆れて嗤うエミヤに士郎は、ふい、と顔を逸らす。
「勝手に、咥えてた、だけだ」
「それを許していたのだろうが?」
「別に、止める、ことでも、ねぇだろ。こっちに、実害は、ないし。ケツまで貸せ、って言われ、たら頭、ぶち抜いてやる、けどな」
「その寸前だったくせに、偉そうな口を叩く」
「クスリ、なんか使う、と思って、なかっ、たんだ」
 ムッとして身体を起こそうとする士郎の肩を、エミヤは地面に押し付ける。
「触んな、って、言って、っだろ」
「薬の効用がわかれば、対処ができる」
「は?」
 エミヤは毛布の中に手を差し込み、士郎のズボンの前をくつろげた。
「な、なに、考え、てんだ、アンタ!」
「問題解決だ」
「はあ?」
「介助してやる、さっさと終わらせろ」
「か、介助って……」
「自慰と思え、未熟者」
「っるせぇ」
 薬のせいで抗えない士郎はおとなしくエミヤの提案を受け入れた。だが、士郎が知らずに飲まされた薬は少々厄介だったようで、結局のところ、コトに及ぶ事態に陥ってしまった。
「これじゃ、介助じゃなくて、セックスだろ……」
 熱い吐息を混ぜて不満を漏らす士郎に、エミヤはしばし考え、納得する。
「そうとも言うな」

 仕方なく抱いたはずの身体は、思いのほか熱かった。背徳も倫理観も軒並み忘れ去るほど、エミヤは夢中になった。
 嫌悪感などなかった。どちらかというと、悦かった方だった。だが、
「何をしているのか、私は……」
 後悔は、した。
 目元を片手で押さえ、ため息をつく。
「おまけに魔力まで奪い取ってしまうとは……」
 そんなつもりは全くなかったし、必要もなかった。
 だが、直接的な魔力供給と同じ状態になったために士郎の魔力が流れてきた。おそらく、タイミングと同調率の高さからだろう。エミヤと士郎は別の存在であっても、やはり同一なのだ。
 疲れ切った士郎はぐったりとして、エミヤの腕の中で眠っている。いい加減、その辺に転がそうかとも思うが、エミヤはなかなか腕を放せずにいる。
 士郎の温もりが心地いい。
(人肌が恋しいというわけでもない……)
 エミヤは己に呆れてしまった。
(衛宮士郎は、元々魔力が少ないのだ。いきなり多量に魔力を奪われて、立つこともできないだろう……)
 服くらいは整えてやった方がいいか、と士郎が脱ぎ捨てたズボンを取ると、腕の中の士郎が身じろいだ。
 何か言うべきか、何を言おうか、エミヤは逡巡したものの、何も言葉が浮かばなかった。
「起きたか」
 口から出たのは確認だった。
「あ…………、ああ、悪いな……」
 エミヤから離れるように身を起こした士郎はズボンを受け取る。
「…………助かった」
 ぼそり、とこぼれた士郎の礼に、いや、と答え、エミヤは立ち上がる。気まずさが拭えない。
「魔力をもらった。イーブンだろう」
「……そだな」
 士郎が衣服を整える姿を見て、エミヤは違和感を覚える。左手だけを使い、ずいぶんと不自然な動きだ。
「衛宮士郎、どこか痛めているのか?」
「いや……」
 エミヤから半身を隠すように士郎は身じろぐ。
「なんでもねぇよ、疲れただけだ」
「……そうか」
 不可解さは拭えないながらも、エミヤは遺跡の穴を出た。
 そこにいるのは、どうにも落ち着かないのだ。事後ということもあるし、二人で何を話すわけでもない。
「私とする話など、あるはずもない……」
 エミヤは呟きながら食料を手に入れるために近くの町へ向かった。


 遺跡へと戻る道すがら、爆撃機の音を微かに聞き取った。
「あの下水溝のアジトが見つかったか?」
 この世界の人間もなかなかに優秀だ、と思いつつエミヤは遺跡へと戻る。
 遺跡の穴に戻ると、士郎は壁面にもたれてぼんやりしていた。
「空爆がはじまったようだ」
 爆音と地揺れが響いている。
「食料を手に入れた。お前は食わなければ、身体が戻らんだろう?」
 紙袋を手渡すと、士郎は顔を上げ、黙って受け取る。
 エミヤがそろそろ仕事に戻ると言おうとしたところで、付近に爆弾が落ちた。
 外を確認し、空を見上げたエミヤは舌を打つ。
「ここにも来るようだぞ」
 士郎を振り返るが、反応がない。
「衛宮士郎?」
「行けよ。俺も、適当に逃げる」
「……そうか。ではな」
「ああ」
 こちらを見ることもない士郎に少し違和感を覚えたが、エミヤは遺跡を後にした。
「大丈夫なのか?」
 砂に埋もれた遺跡を振り返る。
 わらわらと野宿をしていた者たちが逃げていくのが見えたが、その中に士郎の姿はない。
「何をぐずぐずしているのか、あのたわけは」
 遺跡を振り返ったままエミヤは焦れる。早くしろと念じながら、爆撃機の音にピリピリと神経を尖らせる。
 士郎はまだ出てこない。
「……っ、たわけめっ!」
 エミヤは遺跡に向かって駆け出した。穴を覗けば、前と同じ格好のままで座り込んだ士郎がいる。
「何をしている!」
「…………アンタ……」
「行くぞ、立て!」
 左腕を掴んで腕を引いたが、士郎は立とうとしない。
「さっさとしろ!」
 さらに腕を引くと、右脚だけが取り残されている。いや、右腕もだらりと垂れ下がったままだ。
「どう……した……?」
 士郎が顔を背ける。理由はわからないが、その右腕も右脚も、動かないのだとわかった。
「この、たわけ!」
 士郎を横抱きにしてエミヤは駆け出す。爆撃音が近づいてきている。
「アンタ、なに、やってんだ! 下ろせよ!」
「黙っていろ!」
「だ、黙ってて、や、やるから、こ、この運び方、やめろ!」
 エミヤは走りながら、はた、と思い至る。
「あ……、ああ、つい……」
 横抱きにしていた士郎を肩に担ぎなおし、エミヤは砂塵の中を駆ける。
「凛の時の癖が出てしまった」
「……アンタ、遠坂とは、ほんと、いいコンビだったもんな」
 士郎のやけに弱々しい声が聞こえた。
 向きを変えた爆撃機が真上を背後へと過ぎていく。
 エミヤは岩陰に滑り込み、士郎を抱き込んで外套で包んだ。途端、背後で爆音が響く。岩の脇を砂埃が吹き流れていき、振動が地面を揺らす。